次に「面倒」について。これも主観だが、少し面倒だと思うのは初年度だけ。翌年以降は、前年データを引き継ぐので入力項目は減り、楽になる。

e-Taxを利用していない理由のトップは「ICカードリーダライタの取得に費用や手間がかかるから」(e-Taxを利用していない理由|内閣府 税制調査会)だという。

これは、主にマイナンバーカードにかかわることだが、いまのところ、マイナンバー「カード」が無くても、最寄りの税務署でIDとパスワードを事前登録すれば、問題無くe-Taxを使うことができる(マイ「ナンバー」は必要。2024年9月現在)。

使い勝手を向上させるとともに、インセンティブを導入すれば、よりe-Taxへのシフトは進むのではないだろうか。

時間をかけて移行を

「年末調整廃止」提案は今に始まったことではない。開始3年後(1950年)には、シャウプ使節団※3)により、

「できるだけ早く税務署にその主体を戻すことが望ましい」

と勧告されている。にもかかわらず、70年以上続いてきた年末調整。改革が一朝一夕に進むことはあるまい。河野氏も「時間軸でいうとしばらくかかる」と認めているという。むしろ「時間をかけて」国民総確定申告制に移行していただきたい。

為政者にとって損でしかない公約

今回の公約は、政治家が「得」をしない提案を行ったことに意義がある。

国民総確定申告制で、税に対する意識が高まると、政府批判も高まる。国の作業負担も増える。為政者にとっては「損」でしかないのだ。(動機はともあれ)誰も踏み込めなかった領域に、現役閣僚が一石を投じたことは喜ばしい。誰が総裁になるにせよ、どの政党が政権をとるにせよ、政府全体でこの議論が深まることを期待する。

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【脚注】

※1)中小企業白書・小規模企業白書 2024年版  中小企業99.7% うち84.5%が小規模事業者 ※2)国税通則法 納税者の権利憲章(第3次案)|全国商工団体連合会 ※3)戦後GHQの要請によって組織されたアメリカの財政学者カール・S・シャウプを団長とする日本税制使節団。 「世界で最もすぐれた税制を日本に構築する」という理想に燃え、極めて短期間で膨大な報告書をまとめ上げた。GHQに提出した報告書は、そのまま日本政府に対する勧告という形式をとって税制に反映されたため、通称「シャウプ勧告」と呼ばれている。(歴史から見る我が国の『税』 ― 日本税理士会連合会より)