いつからか忘れたが、眠れない夜が続いている。網膜剥離を患ったこともあって、目を使うことはなるべく避けてきた。その代わりに、ベッドに入り、YouTubeやオーディオブックで梶井基次郎の名作「檸檬」、宮沢賢治の「銀河鉄道」、太宰治の短編などを聞いてきた。多くの場合がそうだが、最後まで聞くことはなく、いつの間にか眠っていることが多い。だから、面白い話や好きなコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」ものは何度も繰り返し聴いている。
最近、聴いているのは「入眠夜話」だ。男性のナレーターが様々なテーマを静かに話しかけてくれる。その夜話(Night Tale)で先日、「偉人たちの名言」という特別編を聞いた。学者、政治家、実業家、文芸家など偉人たちの名言が1時間余り紹介されている。
そこで米ソ冷戦時代の終焉を宣言したミハイル・ゴルバチョフ(1931~2022年)の名言が紹介されていた。
「私は収穫の時には立ち会わないかもしれない。しかし、今のうちまけるだけの種をまいておきたいと思う」
この言葉を聴いて、ゴルバチョフがこのように考えながらペレストロイカ(再建)やグラスノスチ(情報公開)などの改革を実施してきたのかと、驚くと共に感動した。ゴルバチョフは現在のロシア社会ではあまり評価されていないようだが、歴史的偉人だったと改めて思った。
ゴルバチョフの上の名言には、自身の名誉や自負心のためではなく、自分の後から生まれてくる次の世代の国民が幸せになるために今、可能な限りの改革を行っていこうという政治家の決意が伺える(「ゴルバチョフ氏、夫人の傍で永眠」2022年9月5日、「『誤解された人』・・人間ゴルビー」2022年9月7日参考)。
当方は数年前、米航空宇宙局(NASA)の研究員の話を独仏共同テレビ局「アルテ」で観た時、やはり同じような思いを持ったことがある。研究員はチームと共に開発して検査装置を衛星に搭載して数十光年先の宇宙に向かって発射する。一人の研究員が「その器材から発信されるさまざまな検査結果、データを自分たちは生きている時にはまだ見られないが、他の研究員たちがその検査結果を知ることが出来るだろう」と語っていたのだ。