「とある教習指導員」のバイク観に「心のブレーキ」が備わった瞬間の出来事をご紹介します。

バイクに関わったことのあるライダーにとっては珍しくもない事例かもしれません。様々な理由から「リターンライダー」として復帰していく方の気持ち、それを見守る周囲の方々の気持ちを共感できればと考えています。

「14年前に起きた交通事故」のエピソード

当時働いていた自動車販売会社のの元同僚であるオオタさん(仮名)は、私が当時乗っていたXJR400Rをみてバイクに興味を持ち始めました。いつの間にか、免許を取得しCB400SFボルドールを購入した彼と、ある日愛知県の伊良湖岬までツーリングへ。到着先でコンビニおでんを食べながら「次は茶臼山(愛知県)ツーリングだ」と約束をして、その日は無事にツーリングを終えたのです。
 「茶臼山ツーリング」当日、集合時間を過ぎても彼は現れませんでした。1時間後、オオタさんから着信。しかし通話の相手はオオタさんの「彼女」でした。

 話の内容は自宅近くの道路で交通事故を起こし意識不明の重体との事でした。それからというもの、彼に対して「バイクを見せつけなければよかった。」と後悔した日々を過ごしていました。

奇跡的に一命を取り止めてから14年、現在は当時の彼女だった奥様と二人の子供の4人家族で幸せに人生を送ることができています。あの出来事は私の教習指導員としての職務にも大きく影響しており、未だ叶っていない「茶臼山ツーリングの約束」は四輪、二輪のお客様に対して安全運転を促す小話になり、「交通社会人」を目指す教習生の心を動かす「とっておきの話」になっています。

わかってくれとは言わないが、バイクはそんなに悪くない。

 「もう一度、バイクからの景色が見たくなった」という乗り手の想いは尊重したい。過去に事故を起こしたオオタさん曰く、「バイク自体は何も悪くない。」とのこと。たしかに交通事故の第一責任者は運転者にあるわけで。しかしながら、過去に大きな事故を起こしたら「また起こすのではないか」とレッテルを貼られてしまうものです。彼は事故に遭ってからというもの、仕事では類まれな営業センスと努力により出世し、プライベートでは家庭円満、そしてマイホーム購入(豪邸)という成功者。そんな彼に対して、ライダーとして、また教習指導員として伝えたいのが「生活」の成り立ち。他者とのつながりや社会的理由が「心のブレーキ」を備える動機づけなのではということ。「安全運転」という月並みの言葉を具現化するには、技術や知識、はもちろん「心の成熟度」が大きく左右するのではないでしょうか。