そのうえで、「私たちは、第2回和平サミット会議の準備でハンガリーがどのようにリーダーシップを発揮できるかについて詳細に議論した。私たちは今年中に第2回和平サミット会議を開催する可能性があると考えており、その実現を望んでいる」と述べている。

MTI通信によると、両首脳はウクライナの和平問題の他、多くの時間を2カ国間の問題について話し合ったという。オルバン首相は共同記者会見で二国間関係改善への意欲を示し、包括的な二国間協力協定に署名したい意向を明らかにしている。ゼレンスキー氏も「貿易、国境を越えた協力、インフラ、エネルギーといった近隣関係の最も基本的な問題について話し合った」と説明している。

例えば、ハンガリーは依然としてロシアの天然ガスに大きく依存しており、その一部はウクライナ経由で運ばれている。それに対し、ウクライナ側は年末に期限が切れる通過契約の延長を望んでいない。もう一つの争点は、ウクライナにおける少数民族ハンガリー人の権利問題だ。ウクライナのトランスカルパチア地方には多数のマジャール人が住んでいる。同地方は昔、ハンガリーに属していた。

第一次世界大戦後の1919年、オーストリア=ハンガリー帝国が崩壊し、1920年のトリアノン条約によりハンガリー王国の領土は大幅に縮小された。その結果、ハンガリーは国土の約3分の2、人口の約3分の1を失い、多くのハンガリー人が新たに創設された隣国(チェコスロバキア、ルーマニア、ユーゴスラビアなど)の領土内に取り残された。ハンガリーはウクライナ、スロバキア、ルーマニアなどに住むマジャール人(ハンガリー人)の権利保護のため尽力を費やしてきた。

興味深い点は、両国首脳はハンガリーに初のウクライナ語学校を開設することに合意していることだ。オルバン首相は「ハンガリーは学校への資金提供を引き受ける。必要に応じて多くのウクライナ学校が開校されるだろう。ウクライナ人がハンガリーをわが家のように感じることが私たちにとって重要だ」と語っている。

ちなみに、EUはハンガリーが理事会議長国に就任する直前に、ウクライナとの加盟交渉を正式に開始した。ウクライナは2002年6月から正式な加盟候補国となっており、今回加盟交渉の開始にゴーサインが出されたわけだ。ウクライナがEUに加盟できるか、いつ加盟できるかはまだ予測できない。加盟交渉の開始は象徴的な意味合いのほうが大きい。

オルバン首相は、トランプ前米大統領の選挙運動に倣い、「ヨーロッパを再び偉大にする」というモットーを選び、理事会議長国の間、ハンガリーはウクライナ戦争の終結に加え、欧州の競争力を高め、移民問題を解決し、西バルカン半島へのEU拡大を進めることに取り組むと表明している(「ハンガリー版『Make Europe Great Again』」2024年6月20日参考)。

オルバン首相とゼレンスキー大統領は案外相性が合うのかもしれない。オルバン首相はゼレンスキー氏の率直な対談姿勢に共感を感じ、ハンガリーの支持を約束している。ロシアとのチャンネルを持つオルバン首相が議長国の時、ウクライナはひょっとしたら停戦に向けて歩み寄ることが出来るかもしれない。そんな希望を感じさせるオルバン・ゼレンスキー初会談だった。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年7月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。