ところが労働法にはこれに対応する規定がないので、解雇ルールを明確にして訴訟の余地をなくすため、2003年に労基法が改正されたが、金銭解決の条件について労使が合意できなかった。このため判例で決まっていた解雇権濫用法理を実定法(のちの労働契約法16条)にするだけに終わり、その後も20年以上にわたって堂々めぐりの議論が続いている。

しかし法改正しなくても日本の外資系企業では金銭解雇がおこなわれている。これは解雇するとき訴訟を起こさないという誓約書をとり、退職金を加算する。つまり裁判なしで当事者の合意で金銭解決すればいいのだが、日本企業では裁判所が不当解雇だと認めないと金銭解決できない。解雇が正当か不当かを裁判で争うより、当事者が金銭で解決すればいいのだ。

現実には裁判の和解で4~7ヶ月分の和解金が支払われることが多く、事実上の金銭解決の相場ができている。これを立法化して金銭解決ルールを決め、基準となる退職金の加算額を明記すればよい。これについては経済学者の提案もあり、ここではケースに応じて最高38ヶ月分の補償額を法律で決め、それ以上については労使の交渉で決める。

いずれにせよ日本経済の行き詰まりを打開する上で労働市場の自由化がきわめて重要だというのは、専門家のコンセンサスである。それを妨害してきたのは、高市氏のように「解雇の自由を認めるのは非人道的だ」などと難癖をつける政治家と、正社員の既得権を守りたい労働組合である。

必要なのは解雇の自由ではない(それは民法で決まっている)。問題は解雇の自由を制限する条件を法律で決め、金銭で解決して個人を会社から自由にし、企業経営の自由度を高めて中途採用を増やす労働市場の改革である。