自民党総裁選が告示され、9人の候補が届け出た。その中でも最有力とされる小泉進次郎氏には、他の候補から意地悪な質問が集中した。

高市氏のいう「日本の解雇規制は弱い」というのは、改革したくない政治家がいつもいう話だが、これは今月の記事でも書いたように間違いである。

問題は役所の「解雇規制」ではなく裁判所の判例

OECDのいう「解雇規制」の指標は、解雇通知の手続き、解雇手当や補償金の額などを基準にしたもので、それによれば日本の解雇規制はOECDの中で下から9位で、弱いほうである。何しろ解雇を制限する規定が労働基準法3条(不当解雇の禁止)と労働契約法16条(解雇権濫用の禁止)ぐらいしかない。

問題は実定法の解雇規制ではなく、判例で解雇が事実上禁止されていることだ。これは日本独特の事情で、労使ともに「解雇」という言葉がタブーなので、法律で解雇の条件を明文化できず、裁判所がアドホックに「不当解雇」についての判例を積み重ねてきた。その定義も整理解雇の4要件の判例で決まっている。これは

人員整理の必要性
解雇回避努力義務の履行
被解雇者選定の合理性
解雇手続きの妥当性

という要件で、中小企業の場合は解雇しないと倒産する場合、大企業の場合は事業部門を閉鎖する場合しか解雇できない。このため中小企業は金銭なしで解雇して労働者は泣き寝入りし、大企業は訴訟を恐れてまったく解雇しなくなった。

必要なのは解雇の「金銭解決ルール」を裁判なしで決めること

これを変えるには、実定法で解雇ルールを決める必要がある。実は民法627条では「雇用期間が定められていない場合は、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができる。解約の申入れの日から2週間を経過すると雇用関係が終了する」と解雇自由の原則を定めている。これは契約自由の原則という民法の大原則である。