お寺の地下にある霊場で“暗闇修行”を体験できるイベント「提灯会(ちょうちんえ)」が、東京都世田谷区の寺院「玉川大師」(東京都世田谷区瀬田4-13-3)で9月16日まで開催されています。
参加者は提灯を手に、地下5mの場所にある長さ100mの拝殿を参拝。お遍路で有名な四国88カ所・西国33カ所の霊場を巡るのと同じ御利益があるとされています。実際に体験してきました。
東急田園都市線・大井町線の二子玉川駅から歩いて10分ほどの場所にある玉川大師。大正時代に創建され、龍海大和尚によって本堂である大師堂と地下霊場(地下仏殿)が建立されました。とくに地下霊場の建立は昭和9(1934)年と古く、その規模は日本有数とされています。
大師堂に入り、お堂の左隅を見ると地下へ降りる階段がありました。ここが地下霊場への入口です。畳敷きの部屋に突然ぽっかりと穴が開いたような不思議な光景に、入る前から思わず背筋が伸びます。
■ 提灯を手に真っ暗闇の地下霊場を参拝 最初に通る“地獄”
お寺の方から提灯をうけとり、いざ地下霊場の中へ。取材当日は汗だくになるほどの蒸し暑さでしたが、地下は涼しく、ひんやりした空気と白檀の香りが全身を包み込みます。
参道の中は、1m先も見えないほどの真っ暗闇。いつもは小さな明かりが灯されているそうですが、現世での煩悩や罪を悔い改めるお遍路の雰囲気を体験してほしいとの思いから、「提灯会」の開催中はあえて明かりを落としているということです。
(注:通常、地下霊場での撮影は禁止されています。今回は特別な許可を得て撮影しています)
提灯のわずかな明かりを頼りに進んでいきます。仏様の胎内を模した参道は大人ひとりがようやく通れるほどの狭さで、クネクネと複雑に曲がりくねっています。まさに「一寸先は闇」ということわざそのままの状況。早くも走馬灯が頭をかけめぐります。
最初に現れるのは、地獄をあらわす回廊。参拝者はまずここを通りながら、自らの罪と向き合います。向かって右の壁に提灯をかざすと、「懺悔文」と大書きされた文が浮かび上がりました。
左手に提灯をかざして現れたのは、「葬頭河(しょうづが)の脱衣婆(だつえば)」。仏教の世界において、三途の河を渡った先で最初に出会う冥界の官吏です。「えんま大王」とは親子関係という説も。死者の衣服をはぎとってその重さ=業の深さを測り、天国行きか、地獄行きかが決まります。
さらに進むと、円満(えんまん:正しくは、くにがまえに「員」、にんべんに「満」の右)地蔵の像があります。名前が似ていますが、「えんま様」とは異なります。ここでの役割は、修行と人間関係の円満を願うというもの。「この世の罪を償い、クリアな気持ちであの世へ行く」というお遍路を見守ってくれる存在です。
■ 四国88カ所・西国33カ所を表す石仏がずらり 「自分の数え年」にお参り
まだまだ参道は続きます。さらに道は険しくなり、鋭いヘアピンカーブのような曲がり角も出現。かなりの距離進んでいるので、ここから引き返すこともままなりません。心臓の鼓動が高まり、大の大人でも思わず涙が出そうになります。
自分の心と仏様を頼りに突き進むこと数分。くねくねとした道を抜けて、突然まっすぐな道にたどり着きました。両脇には四国88カ所・西国33カ所を表す計300体の石仏がずらり。1つの石仏につき、1つの霊場をお参りしたのと同じ御利益があるとされています。
すべての石仏にお参りしたいところですが、お寺の方いわく、自らの数え年(今年の満年齢+1歳)と同じ番号の札所を表す石仏にお参りするとよいとのこと。今年41歳=数え年42歳の筆者は「四十二番」の石仏にお参りしました。
自分の体で悪いと感じている部分と同じところを触ると、快癒する効果があるとのこと。取材前、筆者には個人的に落ち込む出来事があったのですが、触るうちに不思議と負の空気が吸い取られ、心がすっと軽くなるのを感じました。
さらに奥へ進むと、弘法大師の像が現れました。あらためて手をあわせます。
天井には不死鳥・朱雀(すざく)の絵が描かれ、壁には竜神がほどこされています。まさに全方位がパワースポット。たっぷりとエネルギーをいただきました。
再び来た道を10分ほどかけて戻り、入口で出会った円満地蔵にご挨拶をしながら地上へ。地下にいたのはわずかな時間でしたが、不思議な懐かしさのようなものを感じました。なんともいえない不思議な時間でしたが、訪れたときよりも心がはるかに軽くなったような気がしました。