それに加えて、ミナミハンドウイルカは本来、複数頭の群れで行動することが常であり、1頭での単独行動は非常に珍しいものです。
その点も踏まえると、襲撃に関わっているイルカは群れから外れてしまった同じオス個体と考えるのが妥当だといいます。
もちろん、すべての襲撃事件の犯人がこのオスイルカであるとは断定できませんが、その多くに関与していることは確かなようです。
では、なぜこのオスイルカはわざわざ人を襲うようなことを始めたのでしょうか?
性的な「欲求不満」が関係している?
森阪氏によると、まずイルカが人を襲うのは「何らかの交流を求めたコミュニケーションの一環である」ように思われます。
というのもイルカの社会では通常、オス同士が互いに甘噛みをしたり、小突き合うことで積極的にコミュニケーションを取ることが知られているからです。
しかし、このオスイルカは群れから外れてしまったせいで、仲間とコミュニケーションを取ることができません。
そこで代わりに、沖合で遊んでいる人に向かって小突いたり、甘噛みしている可能性が高いと考えられます。
そのため、オスイルカは人に何らかの恨みがあって攻撃しているわけではなさそうです。
もし本当に人を傷つけたいと考えているなら、もっと勢いよくタックルをしたり、強く噛み付いているはずでしょう。
そんな荒っぽい攻撃はしていないところを見ると、イルカは友好的な交流を求めている可能性があります。
ただ不幸なことに、このオスイルカはじゃれているつもりでも、人間とイルカでは体格がまったく異なるため怪我人が続出してしまっています。
また、イルカの襲撃は「性的な欲求不満から来る交尾願望のあらわれ」とも考えられています。
ミナミハンドウイルカの社会では、オス同士の遊びとして性行為の練習をすることがあります。
彼らは「1頭のメス役と、複数頭のオス役に分かれ、オス役がメス役にマウントしたり、ペニスをぶつけたりする」遊びをするのです。