コロナ・バンよりひと周り豊かな商用車

当連載も第50回が目前となったが、第49回である今回は、ビッグネームな国産車のマイナーなボディ形式、初代マークⅡバンをご紹介しよう。

今はなきマークⅡであるが、その初代モデルは1968年9月、トヨペット・コロナ・マークⅡとしてデビューしている。車名が示す通り、コロナの上級版としてクラウンとの車格のギャップを埋めるモデルであった(現在、コロナ消滅からかなり経過しており、この説明ももう通用しづらい気もするが……)。同年、先に登場している日産のローレルと同等の車格となるクルマである。

初代マークⅡのボディスタイルは、3代目コロナのアローラインをふくよかに、ひと回り大きく拡大したものと言ってよい。4ドア・セダンはCピラーに大きなガーニッシュを設けて6ライト風に見せたキャビンが特徴で、ハードトップはこれをベースに2ドアとしたものだが、ウェストラインが微妙なコークボトルラインを描くのもセダンとの違いである。ボディ形式にはこのほかピックアップ(当然2ドアだが、後席スペースを持つダブルピックもあり)、そして今回の本題であるバン(およびワゴン)があった。

搭載エンジンはまず直列4気筒OHCが2種類あり、1.9Lの8R、1.6Lの7Rであるが、それぞれにシングルキャブ仕様とツインキャブ仕様があって、合計4種類。もう1種類、直4 OHVの2Rはバンとピックアップだけに搭載されるエンジンで、1.5Lの排気量から77psを発揮。ピックアップにはこの2Rのみだったが、バンには先述の7Rも組み合わされる。これはもちろんシングルキャブのみで、最高出力85psであった。なお、ワゴンのエンジンはこれと同じ85ps仕様の7Rのみとなる。

デビュー翌年である1969年9月には、DOHCエンジンを搭載したGSSが追加されているが、これより前の1969年2月にバンには動きがあった――初代マークⅡの目立った変更としてはこれが最初のものであろう。それまでは3速コラムMT/前席ベンチシート仕様のみであったのが、このときセパレートシート仕様(シフトは変わらず)が加わったのである。

1972年1月、コロナ・マークⅡは二代目へとチェンジ、ピックアップは初代のまましばらく生産・販売が継続されたが、バン/ワゴンはセダンおよびハードトップとともにフルモデルチェンジされている。

仕事のことは考えたくない!レジャー感満載の「初代マークⅡバン」【魅惑の自動車カタログ・レミニセンス】第49回
(画像=レジャーイメージは表紙から徹底されている。草むらの中に狩猟用ベストと弾帯、パイプの男に大型犬、その後ろには海とヨット。「どんなクルマかも見せておかなきゃ」ということで車名の下に小さめに車両の写真。これでライトバンのカタログとはなかなか気が付きづらいだろう。なお、ワゴン専用のカタログは用意されなかったようである、『CARSMEET WEB』より 引用)

ライトバンながら商用イメージを極力排除したカタログ
さて、ここでお見せするカタログはこの初代マークⅡバン初期のものであるが、セパレートシート仕様が加わった直後のものである(「4403」のコードあり=発行年月1969年3月を示すと思われる)。サイズは296×243mm(縦×横)、ページ数は表紙を含めて全16ページ。

カタログの印象としては「いかにも1960年代終盤」といったものだが、意外に思われたのは、ビジネスシーンにおける活躍をイメージさせる写真が皆無であるところだ。「オールラウンドカー」などというキャッチもあるのだが、イメージカットは海や山でのレジャーを思わせるものがほとんどである。これは当連載でもNⅢバンの回などで述べた通り、当時の国産車においては、バンであっても自家用車としての使用を重視した売り方がなされていたことに起因するのであろうが、この徹底ぶりは只事でない。

マークⅡにバンやピックアップが用意されていたのは、車種自体がコロナの上級移行版であるという事情に起因するのだが、競合車として先にデビューしていた日産のローレルでは、ボディはセダンのみ、グレードもデラックス2種のみでスタンダードなしという、まさに「ハイオーナーカー」に相応しい売り方がされていた。トヨタでは、このローレルの先鋭的なイメージ戦略に慌てた面もあったのではないだろうか。そうした謂わば戦略ミスの弥縫策のひとつが、このようにライトバンであっても大人のゆとりや遊びを強調するカタログだったのではないかと考えられる。

最後に個人的な印象を話しておくと、1975年生まれの自分としては、子供の頃すでに初代マークⅡは一、二世代前のクルマという印象で、ハードトップやセダンなどをじかに見た記憶はわずかしかなく、バンについてはその存在を知らなかったほどだ。幼少期に兄が親からもらった自動車図鑑に出ていた血液運搬車のバンが初代マークⅡであることに、後年になってから気がついて、その存在に奇異な思いを抱いたことが思い出される。