この登用はドンキにどのような影響を与えるのだろうか。
成果主義のドン・キホーテもっとも懸念されるのが、従業員の士気低下だ。裕作氏が「若いから」では無い。「成果がない(みえない)」からだ。ドンキの評価基準は「成果」のみである。
「年齢、性別、国籍など、本来仕事の成果や能力と関係ないことは一切評価の対象とせず、仕事の成果を公平に評価し、適材適所な人員配置をしています」
価値創造|PPIH Integrated Reort 2019
ドンキの成果主義は徹底している。「仕事はワークではなくゲームとして楽しむ」。これが安田会長の信条だ。仕事をゲーム化するため、社員心得(『源流』)に以下の条件が定められている。
「明確な勝敗(勝ち負けがはっきりしないゲームはゲームではない)」 「大幅な自由裁量権(周りから口を出されるゲームほど、やる気が失せるものはない)」
ゲームは熾烈を極める。ドンキの従業員は、半年ごとに、担当カテゴリーの売上高・粗利益率・在庫回転率で評価される。ゲームに敗れた従業員や社風に馴染めない従業員は次々に辞めていく。一方、ゲームに勝った従業員は、入社後3か月で売場責任者、新卒7年目で事業部トップ、8年目で支社長になるなど重用される。この成果主義が、ドンキの成長を後押ししてきた。
しかし、冒頭で述べた経験以外、裕作氏の「成果」は明らかにされていない。年明けから安田会長のカバン持ちとして24時間行動を共にしていること。安田会長から帝王学を学んでいること。いわば「学歴」だけしか明らかになっていないのだ。
世襲について、ドンキの大原孝治元社長は以下のように述べている。
「幼いときから安田の薫陶を受けている子息がいたとしたら、ドンキで長く働いているのと変わらない。『その人材』が経営陣にふさわしければ、担わせるべきだ」
週刊東洋経済 2019年3/30号(ドンキの正体)
確かに、幼いときから安田会長の薫陶を受けたのであれば「能力」は高いかもしれない。だが、その人物を重用するのであれば、もはや成果主義ではない。「能力主義」だ。実現した成果ではなく、将来の成果、つまり「未実現成果」に期待する人事と言える。