以上、当方はプーチン氏がモンゴルに入国する数日前から夢見てきたのだ。戦争に費やす巨額の資金、そして人材を救済できる絶好のチャンスと考えたからだ。トマホークミサイル一発でどれだけの資金が必要かを思い出してほしい。モンゴルがプーチン氏を逮捕すればウクライナ戦争は幕を閉じる可能性があった。モンゴルのフレルスフ大統領の名は世界史に残っただろう。あれも、これもモンゴル側の手にそのチャンスがあったのだ。

残念ながら、モンゴルは黄金のチャンスを逃した。ウクライナのゼレンスキー大統領はモンゴルがプーチン氏を逮捕しなかったことについて、「モンゴルはロシアの戦争犯罪の共犯者だ」と非難したのは頷ける。モンゴルのために少し弁明するとすれば、ロシアと中国の2大国に地理的に挟まれたモンゴルにとって、全方向外交以外に生き延びる道がないのだ。

一方、ICC加盟国を初めて訪問し、モスクワに無事帰国できたことで、プーチン氏は自信を深めたかもしれない。ICCなど恐れるに足らずだ。プーチン氏は今後もICC加盟国を訪問するかもしれない。

それにしても、残念だった。繰り返すが、モンゴルがプーチン氏を逮捕したならば、「手足のない巨人」と揶揄されてきたICCは名誉回復し、世界の戦争犯罪人はもはや安眠できなくなる。プーチン氏の余生はクレムリンに引きこもる以外になくなったはずだ。それにしても、フレルスフ大統領は目先の経済的利益のために大きな魚を逃してしまったのだ。

【国際刑事裁判所】 国際刑事裁判所(ICC)は、国際法に基づいて戦争犯罪や人道に対する罪、ジェノサイド、侵略犯罪などを裁くための常設の国際裁判所で加盟国は「ローマ規程」(Rome Statute)という国際条約に明記された一定の義務を負っている。同規定の第86条、第89条には戦争犯罪人やその他のICCが捜査する人物を逮捕・引き渡す義務が含まれている。ただし、実際は「手足のない巨人」と揶揄されているように、ICCは世界的な法と正義の追求という大きな使命を持ちながら、強制力の欠如、加盟国(124カ国)の協力不足などでその任務を効果的に果たすための手段が限られている。そのうえ、米国、中国、ロシアの大国はICCに加盟していない。