③既存政党への不信感:既存の政党が、国民の声を十分に反映していないという不満が根強くある。特にドイツ東部では、再統一後の政治や経済政策が住民の期待に応えられていないという感覚が強い。「われわれは2等国民だ」という思いだ。AfDは、既存の政治エリートを批判し、「庶民の声を代弁する」という姿勢を打ち出しているため、これに共鳴する有権者が増える。

④新しい政治的リアリティ:AfDは、当初は抗議票の受け皿として台頭したが、今では独自の政治的アイデンティティを確立してきた。彼らの政策や世界観に共感する層はAfDを一過性の現象ではなく、ドイツ政治における新しいリアリティと捉えるようになっている。

⑤情報環境の変化:ソーシャルメディアやインターネットの普及により、従来の主流メディアからの情報に依存せず、独自の情報源からニュースや意見を得る人が増えてきた。AfDは、こうした新しいメディア環境を巧みに利用し、既存メディアに対する不信感を持つ層にアプローチしている。

ここで注目すべきは④だろう。シュスター会長が警告しているように、AfDがドイツの新しい政治的リアリティとなってきた。換言すれば、ドイツでナショナリズム、民族主義が再生してきた兆しが見え出してきたのだ。

AfDの思想的指導者ヘッケ氏は、ドイツが戦後、自国の誇りを取り戻すために、過去の重荷から解放されるべきだと主張してきた。これは、ホロコーストやナチス時代の罪を軽視または否定する歴史修正主義の考え方であり、極右思想の中核にある「民族的純粋性」や「国家主義」に通じる(「東独州議会選とAfDのヘッケ氏の動向」2024年8月31日参考)。

AfDの支持拡大は、ドイツ社会における分断の象徴でもある。移民や難民、グローバリゼーションに対する不安が、社会の一部で過激な形で表現されている。その結果、社会全体の過激化を促進し、異なる意見や背景を持つ人々との対立を深めるリスクが出てくる。特に、少数派や移民、ユダヤ人コミュニティに対する攻撃が増加する可能性があり、それは社会全体に深刻な影響を及ぼすことになる(「『極右』政党という呼称は正しいか」2024年2月2日参考)。