“ナノ”の技術といわれても、なかなかピンとこない。1ナノメートル、つまり10億分の1メートルの世界での話である。物質を構成している最小の単位である原子や分子レベルでの技術開発は、1974年からナノテクノロジーと呼ばれるようになり、今後もさらなる発展が期待される21世紀の注目技術のひとつである。しかし、このテクノロジーの最先端ともいえるナノテクノロジーを駆使して作成されたモノが、すでに1600年前のローマにあったという驚きの報告があるようだ。

■「リュクルゴスの聖杯」の謎が解明される

 時は、ローマ帝国が栄えていた時代まで遡る。紀元295年~325年の間に作られた“ある杯”に、ナノテクノロジーを駆使した装飾が施されていたのである。それこそが「リュクルゴスカップ」もしくは「リュクルゴスの聖杯」として知られるガラスの杯だ。現在は大英博物館に所蔵されているが、この杯は、光の当たり方によってその色を変えるという不思議な色彩をしている。

 スパルタの王であったリュクルゴスの死をモチーフとし、ローマ時代特有の重厚な装飾を施された「リュクルゴスの聖杯」は、正面から光が当たっている時には、不透明な緑色をしている。しかし、光が裏側から当たると、透明な赤へと変化するのである。長年の間、この変色は歴史的にも、芸術的にも、科学的にも謎とされていた。しかし、イギリスの研究チームによって秘密が解き明かされた。

オーパーツ?1600年前のローマ帝国はナノテクノロジーを駆使していたのか 「リュクルゴスの聖杯」が謎すぎる
(画像=大英博物館所蔵の「リュクルゴスの聖杯」 画像は「Wikimedia Commons」より,『TOCANA』より 引用)

 その変色のメカニズムは、なんと分子レベルの光学的変化に由来するというのだ。ガラスに含まれているコロイド金粒子と銀粒子が光を浴びることによって、その粒子に含まれる原子が振動し、その結果、光の透過度と色を変えていた。この粒子は50ナノメートルという大きさで、塩の粒子の1000分の1の大きさの世界での変化なのである。