■じゃあ飲ませる方向で

 いやいや、もっと古典的な青酸カリを毒として食べ物や飲み物に混ぜればいいじゃん……という声が聞こえてきますが、これもまた難儀です。

 前回お伝えしたように、青酸化合物は独特のフレーバーがあり、無味無臭なんてのはウソ、お世辞にも美味しいとはいえません。杏仁豆腐のような風味とメタリックな味は誤魔化しきれるには結構きついものがあります。

 またシアン化化合物は非常に分解しやすく、空気中の二酸化炭素を吸収して反応、無毒な炭酸カリウムへとどんどん変わっていきます。故に、実験用試薬でも結構な生もの扱いで、開封後は早めに使うことが推奨されています。

 毒殺犯が、紙に包んだ青酸カリを隠し持ってサラサラと入れているシーンなんかが、ミステリーに登場しますが、紙包みなんてして毒殺のチャンスを伺いずっと携帯してたら、気が付けば無害なんてこともあり得るわけです。

 加えて致死量も問題です。

 猛毒かと思われていますが、その致死量(LD50)はおよそ5mg/kgとされています。なんだたった5mgで死ぬじゃん……! とか早合点してはいけません。

 5mg/kgつまり体重が60Kgの成人男性なら5mg×60kgで300mgとなります。300mgといえば指先にこんもりあるくらいの分量です。

 しかもこの数字は、LD50(半数致死量)というもので、10人中5人は死ぬかも……という数値であり、つまり死亡率は50%。では確殺には倍量でいいのかというとさにあらず、しかもこのLD50の値はラットでの数値であり、人間に対して確実ともいえないわけです。

 そうなってくると、

さらに10倍は盛らないと確殺とはいきません。

 その分量なんと3g(笑)

 1円玉3枚分です。小さじ一杯満載あります。しかも一切の分解されていない新鮮な状態であるという但し書き付きです。

 そんな分量をいれれば飲み物でも一口で怪しい味になりますし、それだけのものを飲ませることができるなら、そもそも別の猛毒がぜんぜん選択肢として出てくるわけです。