【ヘルドクター・クラレの毒薬の手帳 第1回、青酸カリ/後編】
※本記事は2015年の記事の再掲です。
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■実は毒殺に向いてない青酸カリ
青酸カリは実は毒殺に向いていない。
そんな馬鹿な、アガサ・クリスティのミステリー小説はもちろん、多くの推理サスペンスでも大活躍し、その上、実際にルイ14世の時代には青酸を使ったであろう毒殺事例が多数確認できます。それだけのバックボーンがありながら毒殺に向いていないとはどういうことなのでしょうか?
まず、青酸ガスは非常に致死性の高い猛毒ですが、反応性の高いガスでもあるので、しばらくすると空気中のアンモニアやその他有機物なんかと反応して毒性を失ってしまいます。
アガサ・クリスティのミステリーの中では、ラジオの中に封印された青酸ガスが、音楽のハイライトで共振して割れ、青酸ガスが部屋に充満して死ぬというトリックが出てきます。
まず人を殺すくらいの分量は小さなアンプルに1気圧で封印できる程度の少量では無理で、青酸ガスの致死濃度である300ppm(部屋の空気に0.03%混合しなくてはいけない)に達するためには、仮に6畳くらいの部屋を想定しても十数グラムの液化ガスを封入しなくてはいけないことになり、ラジオの中に搭載するのは、相当な技術というか金がかかります(笑)。
しかもとんでもない圧力がかかったアンプルがラジオの音楽の共鳴で割れ、それ以外では割れないようにしなければいけないんで、これは現代のテクノロジーをもってしても厳しいと言わざるを得ず、まさにフィクションと言わざるを得ないわけです。
いや、だからこそフィクションなんですが(笑)