時間は矢のように一方向に流れているように感じられる。未来を覗き見ることはできず、過去に再び訪れることもできないように感じられる。日々の全ての瞬間は自らの死に向かって進んでいるように感じられる。これが月並みな時間経験というものだろう。しかし、これから紹介する理論では、過去・現在・未来が全て同時に実在し、時間は流れ去らないと考えることもできるという。
■ブロック宇宙論
「ブロック宇宙論」では、宇宙は4次元時空のブロックとして見られ、全ての出来事はその中にすっかり納まっていると考えられている。豪「ABC NEWS」(9月23日付)の記事で、シドニー大学哲学科のクリスティ・ミラー准教授が詳しく説明している。
ブロック宇宙論で考えられているブロックは、長さ、高さ、幅からなる3つの空間次元に、時間を加えたもの。ミラー准教授によれば、立方体の長さを時間に置き換えたようなものだとイメージすればよいという。この辺の一方の端が宇宙の始まりであるビッグバンで、もう片方の端が宇宙の終焉であるビッグクランチになるわけだから、この立方体には宇宙の全てが詰まっている。
するとどうだろう。過去はすでに過ぎ去り存在せず、未来はまだやって来ていないから存在しないはずであるが、ブロック宇宙論からみれば、それらは全てブロックの中に実在しているということになるのだ。
しかし、ブロック宇宙論はあまりにも常識とかけ離れ過ぎているため、ややもすれば机上の空論のように響くだろう。「そう言おうと思えば言える」だけで、何ら実際的な根拠がないように思う読者もいるかもしれない。
だが、実はブロック宇宙論はアインシュタインの相対性理論と深い関係があり、決して無意味な思弁ではないのだ。相対性理論は時間と空間が単独ではなく、統一的に絡み合った「時空連続体」であるとした。そして、特殊相対性理論を定式化したミンコフスキー空間(時空)では、時間を空間的に表現することができる。ここから生まれた時間論が、ブロック宇宙論なのだ。相対性理論が宇宙の真理を表しているならば、そこから生まれたブロック宇宙論も時間の真理に触れているはずである。