近年、豊富な鉱物資源に注目が集まるようになると、パキスタンが「古い友人」とする同盟国・中国が進出を開始。中国が一帯一路を掲げると、進出はさらに活発になった。

中国は他の地域同様、労働者や技師を本国から連れてくる上、鉱山収入の半分以上を確保する場合もあり地元の怨嗟の的となっていった。2019年に現地を訪問した際、地元住民は中国について「全てを占領しようとする」と話していた。さらに、パキスタン側の取り分も中央政府がほぼ確保するため、バローチスタンはいわば二重の搾取を受ける形になっている。

当局によれば、今回、殺害された人の多くがパンジャブ人とされている。パンジャブは首都イスラマバードや大都市ラホールを擁する州で、その出身者がパキスタンの政治経済を牛耳っていると他地域から非難されている。前述の二重搾取を受けるバローチ人にとって、パンジャブ人は中国の代官とも言える存在だ。それゆえ、武装勢力はパンジャブ人を狙ったと推測される。

以前、現地取材で知り合ったバローチ人によれば、地元の人たちは今回の攻撃を支持しているようだ。一方でただの労働者など無実の人間を殺害したことは非難した。

今回の攻撃然り、武装勢力は道路上で車両を待ち伏せするという手法を好む。今回の攻撃を含む一連の武装勢力の作戦では、主要な幹線道路が標的となっている。

(「中国パキスタン経済回廊」の道路網 公式サイトより)

(武装勢力が攻撃を実施したとする地点 Balochistan Postより)

攻撃が行われたとする地点はほぼ、「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」を構成する道路と一致する。CPECは、中国が一帯一路の中でも特に重要な経路とするものだ。武装勢力はこのCPECを攻撃し、いわば一帯一路を”通行止め”を常態化させることで中国支配の動揺と地元住民の支持を狙っているのである。

成長減速が囁かれ久しい中国は今後、ますます一帯一路の参加国から多くを搾り取ろうとするだろう。今回の攻撃含め一連の事件で一番頭を抱えているのは、実のところ北京なのかもしれない。