例えばこれまでには、「小惑星や彗星を火星の表面に衝突させて、水蒸気やその他の温室効果ガスを放出させる」というアイデアがありました。

また、「強力な温室効果ガスであるフロンを排出する工場を火星に建設する」というアイデアもありました。

ちなみに火星では材料となるフッ素が希少なため、火星でフロンを製造するには、地球から膨大な量のフッ素を運ばなければいけません。

いずれにせよ、非現実的な計画だと言えますね。

そんな中、アンサリ氏ら研究チームは、「より現実的な(と主張する)」火星温暖化計画を発表しました。

人工ナノ粒子で火星を覆って温度を30℃以上高める

アンサリ氏らが提案したテラフォーミングは、「人工ナノ粒子で火星を覆う」というアイデアです。

しかし、人工ナノ粒子を地球から運ぶわけではありません。

火星に元々存在している材料を使って人工ナノ粒子を作るのです。

火星には大量の塵があり、これまでの調査からその塵には鉄とアルミニウムが豊富に含まれていることが分かっています。

これら塵の粒子自体は、その異なる形状や組成ゆえ、火星を温めるというよりも、むしろわずかに冷やしてしまいます。

棒状の粒子が熱を閉じ込め、太陽光を地表に向けて散乱させる
棒状の粒子が熱を閉じ込め、太陽光を地表に向けて散乱させる / Credit:Samaneh Ansari(Northwestern University)et al., Science Advances(2024)

しかし研究者たちは、この火星の粒子を短い棒状の粒子へと加工し、特定の形状や大きさに揃えることで、温暖化に役立つことを発見しました。

長さ約9μmのナノ粒子(サイズ的にはマイクロ粒子だが、本記事では論文の表記に合わせてナノ粒子と呼ぶ)へと加工することで、火星から逃げる熱を閉じ込め、太陽光を地表に向けて散乱させることができるというのです。

そしてこのアイデアでは、これらのナノ粒子を高さ10~100mのパイプを使って、毎秒30リットルの割合で火星の空に放出します。