これは不合理にみえるが、そうではない。自分が死ぬまでに日本政府が倒れなければ、(2)式は成り立つからだ。つまり国債バブルは、人間の寿命が有限だという事実によって支えられている合理的バブルなのだ。それは均衡財政では生み出せない需要を創出し、需給ギャップを調整するが、長期金利が名目成長率を上回ると危険である。

国債バブルを維持するには円安の抑止が必要だ

これは通貨発行益と同じで、1万円札の「本当の価値」は20円ぐらいだが、それが1万円の価値をもつのは、国民が財務省と日銀を信頼しているからだ。これは自明ではない。トルコのエルドアン大統領のようにインフレになっても金利を下げるような政権だったら、投資家は国債を売り、長期金利は50%になり、財政は破綻する。そういうケースは発展途上国では珍しくない。

つまり財政が安定する必要十分条件は政府のへの信頼なので、財政タカ派とかハト派というより、いかに政府を信頼させて国債バブルを維持するかが重要なのだ。Brunnermeyerらによれば、政府が遠い将来まで緊縮財政を約束し、中央銀行が国債をマネタイズして長期金利を抑制すれば、バブルは維持できるという。

この意味で金融村が国債の90%を保有している「空気」が重要だ。その原因は日本国債の金利が異常に低いので、外資が買わないことだ。黒田日銀の量的緩和は、結果的にゼロ金利を維持して国債バブルを守る役割を果たした。

しかしこれから日銀が量的引き締め(QT)で国債保有を減らすと、金融村の空気を共有しない海外ファンドが国債の空売りをかけ、金利が上がるおそれがある。これによって国債費が増えると財政が悪化し、金利が上がって財政が雪ダルマ式に悪化する。

また円安でキャピタルフライトが増えると、それが円安を加速して悪循環に入る可能性もある。だから財政の安定を維持するには、円安を抑止して資本流出を防ぐ必要がある。