さてこのウォールストリート・ジャーナルの社説は「謎の最高司令官」と題されていた。いうまでもなくアメリカ大統領は米軍陸海空三軍の最高司令官となる。国防、国家安全保障の最高責任者として全世界の脅威と対峙する任務をも有する。
だがこの社説はハリス候補がこの種の国際問題について、どんな思考を持っているのか、わからない、と主張するのだ。その主張の骨子は以下のようだった。
アメリカにとっても現在の国際情勢は第二次世界大戦以後、かつてないほど危険となった。そんな現状のなかで、アメリカの大統領として米軍全体の最高司令官になるかもしれないこの女性政治家がなにを考えているかが不明である。なぜならハリス候補は民主党の大統領選への指名を確実にしてからも、記者会見やインタビューを一切、していないからだ。 有権者はハリス候補本人の口から、アフガニスタンからの米軍撤退の失態、ロシアのウクライナ侵略への抑止の失敗、イランの核兵器開発、中国の南シナ海、東シナ海での違法な領土拡張などについてどう考えるのかを聞く必要がある。中東情勢でもハリス候補はイスラエルのネタニヤフ首相の米議会での演説をボイコットしたが、アメリカ歴代政権のイスラエル支持の基本に反対するのか。この社説はハリス候補への以上のような疑問と要求をぶつけながら、同候補の過去の言明が懸念の対象となっていることを明確に指摘していた。以下の骨子だった。
ハリス氏は2020年に上院議員として大統領選への名乗りをあげた時期に「国防費は削減されねばならない」と明言していた。中国の習近平政権が画期的な軍事力増強を続け、インド太平洋での軍事脅威を高めていることに対して、いまもなおアメリカ側の軍事力の削減を求めるのか。こうした疑問が提起されるのも、ハリス氏がバイデン政権の副大統領として外交政策や軍事政策など対外的な課題にほとんど接してこなかったことが原因だろう。
だが同時に副大統領として対外課題についてまず語ることがなかった点も大きい。しかも副大統領になる前の上院議員時代には中国やロシア、イランなどの脅威に対しても、融和的な意見を述べてきたことも、このウォールストリート・ジャーナルの社説が率直に表明するような懸念を生んでいるのだともいえよう。