初出場/初優勝!ダットサンが勝った!
ダットサンが参戦したのは排気量1000cc以下のAクラスで、他に3台の計5台がエントリーしていた。ちなみにラリー全体は67台が参戦している。2台のダットサンがシドニーの港に陸揚げされた時、オーストラリアの人から「どこの国のパーツで組み立てたのか?」と聞かれたという。難波たちが、「すべて日本製のパーツで組み立てた純日本製だ」と説明しても、なかなか理解してもらえなかった。オーストラリアの人は、敗戦国の日本がクルマ、ましてや乗用車をゼロから作り上げられるわけがないと考えていたのである。日本車に対しての認識はその程度だった。さらに現地調達のナビゲーターからはクルマに積み込む工具の多さを指摘される。当時ダットサンはエンジン関係に「インチ」、シャシー関係は「ミリ」のネジを使用していた。イギリスのオースチン社から技術を習得した影響である。そのためクルマにはインチとミリ、2セットの工具を積む必要があった。ラリーという競技に勝つためにはクルマは可能なかぎり軽くなければならない。それなのになぜダットサンは2組みの工具を積むのかというナビゲーターの主張はもっともだった。ここで難波は「輸出にあたってインチとミリのネジが混在しているのはプラスにならない」という教訓を得る。
8月20日にラリーはスタート。この年はとくに悪天候に見舞われ、コースのいたるところで洪水が発生。最初から事故があいつぎ、カンガルーと激突したり、泥沼のなかで身動きがとらなくなったり、メカニカルトラブルに見舞われたりでリタイアが続出。スリップによる事故で死者まで出る凄まじいラリーとなった。この中で2台のダットサンは時には100km/h以上の高速で疾走。悪路に苦しみながらも見事に2台とも完走する。しかも富士号は堂々のクラス優勝(総合25位)、桜号もクラス4位(総合34位)に食い込み、同時に外国参加賞3位も獲得した。ちなみに完走は出場67台中、わずか34台だった(なお総合優勝はVWビートル)。
初めての挑戦でクラス優勝の栄冠を得たダットサン210。豪州ラリーという超過酷な総合テストの場で実証したパフォーマンスと卓越した耐久性は、技術陣に大きな自信を与えた。それが後の本格輸出と躍進につながったのである。
提供元・CAR and DRIVER
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