8月9日夜8時前に神奈川県西部を震源とする地震が起き、多くの交通機関に影響が出た。運転を見合わせた小田急線の小田原線の渋沢駅~新松田駅間では、乗務員の指示で乗客が降ろされ、誘導に従い線路・鉄橋上を歩行して深夜に山中の踏切に着くと、そこからは自力で帰宅するように言われて「現地解散」となったというSNS上への投稿が注目されている。乗客が乗務員に交渉した結果、電車内での待機を許されたとのことだが、指示に従って徒歩で自力で帰宅する乗客もいたという。小田急電鉄はなぜそのような対応をとったのか。同社の見解を交えて追ってみたい。

 9日に起きた地震では、神奈川県で震度5弱、東京都・埼玉県・山梨県で震度4、静岡県・長野県で震度3が観測された。広い範囲で交通機関への影響が発生し、東海道新幹線(品川―静岡間)、小田急電鉄各線(小田原線・多摩線・江ノ島線)などで一時、運転の見合わせが起きたほか、多くの路線で緊急停車が発生しダイヤが乱れ、帰宅途中の人々が足止めされた。

 小田急電鉄の上記3路線は一時、全線が運転見合わせとなった後に順次再開したが、小田原線の海老名駅~小田原駅間は深夜まで運転見合わせが続いた。今回注目されているのが、それにより渋沢駅~新松田駅間で緊急停車した車両で取られた小田急電鉄による対応だ。乗客とみられる人々がSNS上に投稿している内容によれば、以下の対応だったという。

・夜8時過ぎ、安全確認が取れないため運転再開の見込みが立たず、運転再開まで時間がかかる可能性がある旨の車内アナウンスが流れる
・乗客が乗務員の誘導に従い線路に降り、暗闇の中、徒歩で近くの踏切まで歩行
・夜10時頃に山の中の踏切に着くと、そこからは自力で帰宅するように乗務員から言われ「現地解散」となる

 その後、複数の乗客が乗務員に交渉した結果、車内での待機が許されたが、一部の乗客は自力で帰宅するため徒歩で出発。結局、状況が打開されたのは午前3時すぎとなり、小田急電鉄の社員が来て、誘導に従い後続の車両まで徒歩で移動し乗車。その車両が運行して午前4時頃に小田原駅に到着したという。

事前の沿線の自治体との協議の必要性

 このような対応は一般的なのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏はいう。

「一般的な対応と思われます。小田急電鉄の場合、大都市近郊の鉄道ということもあって駅と駅との間の距離が短く、また沿線に人家が多いこともあり、列車が長時間立ち往生して乗客を降車のうえ避難誘導する際には最寄り駅または最寄りの踏切という規則を定めており、こちらも妥当と考えられます。もちろん、乗客全員を駅まで案内したうえで代替の交通機関が用意されていればよいのでしょうが、大地震のような大規模な災害では他の交通機関も止まっている可能性が高いので、難しいといえます。そもそも大都市の鉄道は乗客が多いので、とても対応できないという交通システム上の問題もあります。そこで、駅に滞留できるようにするか、または沿線の自治体の協力を仰いで乗客が避難場所で待機できるようにすべきであったでしょう」

 なぜ小田急電鉄はこのような対応を取ったのか。

「今回立ち往生した小田原線の渋沢駅~新松田駅間は小田急電鉄の駅間距離で最も長く6.2kmあり、列車は両駅の中間付近に停止した結果、最寄りの踏切も両駅からのほぼ中間となる渋沢8号踏切でした。小田急電鉄の回答(後述参照)のとおり、この地理的な条件が車内での待機という特例を生み出したと考えます。渋沢8号踏切は新松田駅から徒歩40分ほどのところで、山あいの夜間に歩くとなるととても大変です。歩ける人は別として、歩行が難しい人には行政の支援を依頼して新松田駅まで送迎を任せるなど、一刻も早く列車のある場所から立ち去ったほうがよかったと考えます。なぜならば、余震あるいはさらに大きな地震が起きる可能性がありますし、線路は一見無事に見えても崩れる可能性もあったからです。

 小田急電鉄は『当社として、このような取り扱いは初めての経験であり、この経験を糧に、有事の際のお客さまご案内方針の検討・見直しをしてまいりたいと考えます』と言っています。災害ごとにどのような対応がよいのかを、小田急電鉄単独ではなく、置かれた環境の似た鉄道会社共通で設定し、沿線の自治体とも連携するようにして改善する必要があると考えます。なお、今回列車が停止した付近は市町村境が複雑で秦野市と松田町との境が入り組んだ場所です。こうした場所に列車が立ち往生したときはどうするのかを、あらかじめ沿線の自治体と協議しておくことも忘れてはなりません」(梅原氏)

 以下、梅原氏による取材に対する小田急電鉄の回答。