今回の決定でIRIS-T防空システムの引き渡しは一時的に断念されたばかりか、砲弾、ドローン、戦車や自走砲の予備部品の注文でもドイツの軍需産業は供給できる体制にあるが、「資金が承認されない」という理由で一時停止されているという。

ショルツ政権は2024年連邦予算案に対して連邦憲法裁判所の違憲判決を受け、再検討するなど混乱したが、今月17日、2025年の予算案を閣議決定したばかりだ。基本法の債務ブレーキ要件は引き続き遵守される一方、歳入不足を補うために、連邦所有のドイツ鉄道への資金の再配分などが検討されている。

ちなみに、ドイツ連邦統計庁が発表した第1四半期の国内総生産(GDP)速報値は前期比(季節調整後)で0.2%増、第2四半期になって大きな成長はみられず、リセッション(景気後退)から回復の兆しはまだない。そのような中で、対ウクライナ支援の停止はやむを得ない状況ともいえるだろう。ショルツ首相はこれまで「わが国はウクライナが必要としている限り、支援を継続する」と言明してきたが、国内の経済情勢はその支援にストップをかけてきたわけだ。

参考までに、今月に入って、ウクライナ軍が越境し、ロシア領内のクルスク州に軍事侵攻したことから、ロシア側の強い軍事的報復が予想されるなど、ロシアとウクライナ間の戦争がエスカレートし、欧米諸国を巻き込む危険性が出てきている。ロシアとの直接の軍事的衝突を恐れるドイツは、ウクライナ側の越境攻撃を歓迎していない。そのうえ、2022年9月に発生した「ノルド・ストリーム」のパイプライン爆破事件について、最近の報道によると、ウクライナに関連するグループが関与していた可能性が改めて明かになってきたばかりだ。ウクライナ政府は事件当初、事件との関わりを否定してきた。

このような情勢から、ショルツ政権内でもウクライナへの無条件で全面的な支援に対して、慎重になるべきだといった声が聞かれ出している。2025年の新たなウクライナ支援の停止は、単に財政的な要因だけではなく、ウクライナ側の軍事戦略へのドイツ側の不満も反映していることは間違いないだろう。いずれにしても、11月の米大統領選の行方と共に、欧州の代表国ドイツの財政情勢が持続的なウクライナ支援の公約に影を差してきた。