彼が所持していたのはマスケット銃に火薬、ナイフと大工道具がいくつか、それに身につけている衣服と一冊の聖書だけでした。

小屋を建てて暮らすセルカークの絵図
小屋を建てて暮らすセルカークの絵図 / Credit: commons.wikimedia.

彼は島の内陸部に住む野生の獣を恐れて、海岸付近で生活を始めています。

小さな洞窟に棲みつき、貝殻なんかを食べながら、救助の船が通りかからないかと毎日毎日海を眺めていました。

その後、交尾期に入ったアシカの群れが海岸に押し寄せてきたため、セルカークは仕方なく島の内陸部へと移動します。

しかし彼の心配に反し、内陸部に危険な獣はおらず、むしろ生活はずっと快適になりました。

内陸には多種多様な食糧が豊富にあったからです。

幸運だったのは、セルカーク以前に島を訪れていた水夫たちが持ち込んだヤギが野生化し、繁殖していたことでした。

これらは食肉やヤギ乳としてセルカークの主食となります。

他にも野生のカブやキャベツ、胡椒の実など、食べる物はかなり充実していました。

少々厄介だったのは島のネズミたちが夜な夜なやって来て、セルカークをかじったことでしたが、これまた幸いなことに、ヤギと同じく野生化したネコを飼い慣らすことで、ネズミは一切寄り付かなくなったのです。

野生化したヤギを狩猟するセルカークの絵図
野生化したヤギを狩猟するセルカークの絵図 / Credit: commons.wikimedia.

さらにセルカークは島の木材を切り出して、居住用の小屋も建てています。

このように彼の無人島生活は思いのほか快適に進んでいたようですが、一度だけ三途の川を渡りかけた出来事がありました。

それは銃の火薬が切れたため、自らの足で走って獲物を追いかけていたところ、崖から転落して意識不明の重体に陥ったのです。

丸一日は寝たきりになっていましたが、偶然にも獲物が下敷きになってくれたおかげで九死に一生を得ています。

こうして彼の無人島生活は一日一日と過ぎていき、気づけば4年と4カ月の月日が経とうとしていました。