どこかふわっとした響きだ。ラシドレミファソ の音列より、①④⑦つまり四度の間隔の音を鳴らすと、こんな風通しのいい和声が生ずる。

♪ち~よ~に~いいや~ち~よ~に

ここは「シ・ミ・ラ・レ」の和音だ。シドレミファソラシドレ つまり①④⑦⑩の音でできた、四度堆積和音である。

ここは「レ・ソ・ド」の和音。レミファソラシドの①④⑦。やはり四度堆積和音である。

こんな感じに、縦の音の並びが、この後も①④⑦や①④⑦⑩を基本にした、風通しのいい和音になっている様が、分析するとよくわかる。

「♪や~ち~よ~に~」

この後、ある大胆な技を編曲者は仕掛けてくる。原曲では「♪や~ち~よ~に~」の小節が、C長調の体裁を保ちながら実はG長調だ(前述の分析を参照)。ところがこのリオ五輪用「君が代」では、G長調で収まるどころか、さらにA♭長調にまで針が大振れするのである。

「ファ♯」の音がここでは鳴っている。「ドレミファソラシド」の音列が「ドレミファ♯ソラシド」=「ファソラシドレミフ」に調性が切り替わってG長調。ここまでは原曲と同じだが…

「や~ち~よ~に~」

♪や~ち~よ~に~ の「に~」で、音列が「ドレ♭ミ♭ファソラ♭シ♭」=「ミファソラシドレ」でA♭長調に(いつのまにか)入れ替わる。

C長調(すべて白鍵で弾ける)→G長調(黒鍵がひとつ混じる)は近親調だとして、そこからさらにA♭長調(黒鍵がひとつどころか四つ!)に跳ぶのは、ずいぶんエキセントリックだ。

実際に弾いてみよう

しかし鍵盤に指を置いて鳴らしてみると、G長調→A♭長調へのジャンプは、それほどエキセントリックでもない。

何か気づかないだろうか?1オクターヴのなかに鍵盤は五つあって、前者はそのうち「F♯」の黒鍵(青)を使い、後者は残る四つの「A♭、B♭、D♭、E♭」黒鍵(緑)を使っている。

昔の写真でいう、ポジとネガのような関係である。エキセントリックでありつつも、スマートなバトンタッチが果たされる。