この塗料は日産と、放射冷却製品の開発を専門とするラディクール社との共同開発によるもので、電磁波、振動、音などの性質に対し自然界では通常見られない特性を持つという人工物質「メタマテリアル」を採用。「熱のメタマテリアル」として、晴れた冬の夜間から早朝にかけて起こる放射冷却と同じ現象を人工的に引き起こすとのこと。
これにより、太陽光を反射するだけでなく、クルマの屋根やフード、ドアなどの塗装面から熱エネルギーを大気圏外に向かって放出することが可能となり、車内の温度上昇を抑制するとしている。
日産では、開発段階においてこの塗料と通常塗料とで塗装した車両を比較した際に、外部表面で最大12度、運転席頭部空間では最大5度の温度低下を確認しているという。これにより、炎天下に長時間駐車していた車両へ乗り込む際の不快感を軽減したり、エアコンの設定温度や風量の最適化によって燃費や電費の向上を図ったりすることができそうだ。
具体的な研究は5年以上前から・ラディクール社と共同で
本塗装を開発した、総合研究所で先端材料・プロセス研究を担当する主任研究員の三浦進氏は、ポピュラー・サイエンス誌の2020年「Best of What‘s New Award in the auto category」を受賞した「音響メタマテリアル」の開発も担当しており、より効率的に車内の静粛性を向上させる方法を長年研究してきたという。
当該塗装の開発においては2018年からラディクール社との共同開発の可能性を探り、2019年にはフィルムによる冷却効果を確認、さらに自動車への適用を考慮し2021年から塗装の共同開発を進め、今回の実証実験にいたったとのこと。
三浦氏は、「私の夢は、エネルギーを消費せずにより涼しい車を作り出すことです。特に電気自動車(EV)において重要となる夏のエアコンの使用によるバッテリーの負荷を、大きく軽減できる可能性があります」と述べている。
3年の開発期間、100以上のサンプル作製
メタマテリアル技術を利用した放射冷却塗料は建築用途には使用されているが、建築用塗装は自動車用塗装よりも塗膜が非常に厚く、ローラーでの塗布を前提としており、自動車では必須となるクリアトップコートの使用も想定されていない。そのため日産では、この塗料を自動車に適用できるよう、エアスプレーでの塗布や、クリアトップコートとの親和性、厳格な同社品質基準など、様々な条件への対応に取り組んできた。
そして約3年の開発期間、総合研究所での100以上のサンプル作製を経て、自動車塗装に用いられるエアスプレーでの塗装に成功。また今回の実証実験において、塗装の欠けや剥がれ、傷、塩害などの化学反応に対する耐性、色の一貫性や修復性などにも、現時点で問題がないことも確認したとのこと。
さらに、自動車用塗装への適用として重要な要件のひとつである塗装膜厚においては、同等の冷却性能を確保しつつ開発当初の120µm (0.12mm)から大幅な薄膜化に成功したという。現在、トラックや救急車など、炎天下においての走行が多い商用車への特装架装としての採用を検討しており、商品化に向けてさらなる薄膜化に取り組んでいるという。
この塗装の効果と耐久性を検証するため、日産では、羽田空港において2023年11月から1年間の実証実験を実施。ラディクール社日本法人の販売代理店を務める日本空港ビルデングの協力により、ANAエアポートサービスが空港で日常的に使用しているNV100クリッパーバンに当該塗料を塗装して評価を行ったとのことだ。
日産では長期ビジョン「Ambition2030」の下、よりクリーンで安全、インクルーシブで持続可能な企業となることを目指し、モビリティと社会の可能性を広げていきたいという。
文・CARSMEET web編集部/提供元・CARSMEET WEB
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