その原因は地球が大きいからではない。大きな天体でも、たとえば木星が100年後にどういう軌道を回っているかは正確に予想できる。それは惑星の軌道を決める変数が少なく、その運動が線形だからである。しかし大気は複雑系なので、一部のデータが動いただけで全体が大きく変化する「非線形性」がある。1週間後の天気も正確に予報できないのはこのためだ。

まして地球全体の大気を数十キロメートルごとに毎日観測した膨大な気象データを集計し、それを一つの流体としてスーパーコンピュータで挙動を計算し、100年後にどうなるかを予測することは「不可能なのでやるのは無駄だ」というのが科学的に誠実な答である。

今後のことはわからないが、寒冷地の凍死者の数は熱帯の熱射病の死者よりはるかに多いので、温暖化で世界の気候による超過死亡数は減った。地球温暖化は命を救うのだ。

脱炭素化のコストはそのメリットより大きい

温暖化対策と称して各国が進めている政策は、気温上昇という自然現象を大気の組成を変えることで防ごうという壮大な試みだが、温室効果ガスを減らす政策に多額の公的投資をおこなうには、少なくとも次の3条件が必要である。

地球の平均気温が上がっており、その被害が大きい 温暖化の最大の原因は人間の出す温室効果ガスである 脱炭素化のコストは温暖化の被害より小さい

このうち1については、少なくとも最近30年ぐらい地球の平均気温が上がったことは事実である。ただ長期でみると1万2000年前に大きな気温上昇が起こり、1000年前の中世温暖期には今と同じような気温だったと推定されているので、温暖化は現代に特有の現象ではない。

その被害について今のところ温暖化が原因とわかっているのは海面上昇と雨量の増加だが、それほど深刻な被害は出ていない。ハリケーンやサイクロンなどの異常気象が増えているという説もあるが、IPCCの報告ではそういう傾向はみられない。