認証試験の不正問題が拡大しているトヨタ自動車の社内で、豊田章男会長をはじめとするトップに対する不満が高まっている。5月末に不適切な認証試験が発覚したことを国土交通省に報告し、記者会見で豊田会長は、基準より厳しい試験を行っていたとの主張を繰り返し、現行の型式認証試験制度に問題があると悪びれずに主張。7月に新たな不正は見つからなかったと報告したが、国交省の立ち入り検査で新たな不正が見つかった。国交省はトヨタに対して認証業務に向けた抜本的な改革を促す是正命令を出した。トヨタの新型車開発の遅れなど、事業への影響は避けられない状況で、社内では「高額の報酬を受け取りながら経営トップのリスクマネジメントが機能していない」と憤りの声が噴出している。

 トヨタグループのダイハツ工業や、トヨタ車向けディーゼルエンジンを製造している豊田自動織機で認証試験に関する不正が発覚したことから、国交省は自動車などの型式認証試験に関係する企業に対して、不適切な事案がないか過去10年間さかのぼって調査するよう指示した。この結果、5月下旬にトヨタ、マツダ、ホンダなどが不適切な事案が見つかったと国交省に報告した。

 トヨタは現行生産3車種を含む7車種で不正が見つかり、調査を継続するとしていた。国交省は不正な認証試験を行っていた「ヤリスクロス」などの3車種の出荷停止を指示するとともに、6月3日からトヨタに対して立ち入り検査に入った。

 国交省がトヨタに対して厳しい目を向けるきっかけとなったのが、豊田会長らが出席した最初の不正発覚後に開いた記者会見だ。不適切な認証試験が発覚したことに関して謝罪しながらも、基準よりも厳しい試験を行っていたのに不適切となる日本の型式認証制度には問題があると主張。また、豊田会長は「不正の撲滅は無理」「認証試験のプロセスの全体像を把握している人は(社内に)1人もいない」と、型式認証制度を所管する国交省を挑発するような発言を繰り返した。

 国交省はトヨタが主張する基準より厳しい試験が「一概に厳しい試験内容とはいえない」との立場。日本の型式認証制度を問題視していることに関しても、国交省は、日本の制度は相互承認(「車両等の型式認定相互承認協定」と呼ばれる国連の基準に沿った制度で、認定を取得した装置については当該協定規則を採用した他の協定締約国での認定手続きが不要になる。日本独自のものはワイパーなどの4項目のみ)を利用していると説明し、トヨタの不正行為は海外の認証制度に照らし合わせても不正に値するとの見解を示した。

「都合の悪い内容は豊田会長の耳に入れないようにしてきた弊害」

 安全と環境の重視が求められる自動車メーカーの経営トップによる型式認証制度に関する理解不足と軽視を問題視した国交省は、トヨタに対して厳しい姿勢で臨むことを決定した。不適切な認証試験が発覚して出荷停止の指示を受けていたマツダなどは、保安基準に適合することが確認され出荷再開が認められる一方、トヨタの3車種は出荷停止が継続された。

 そしてトヨタは7月5日に国交省に対して前回報告した7車種以外では不正が見つからなかったと報告。これを受けて国交省は報告内容を踏まえて再度、トヨタに対する立ち入り検査に入った結果、追加で現行生産4車種を含む7車種で新たな不正が見つかったと発表した。加えて、前回不正があったと報告した2車種で、正しく事実関係が報告されていなかったこともわかった。

 豊田会長が前回の不正発覚の際に「基準よりも厳しい試験」と主張していた代表例が「クラウン」の後面衝突試験だ。基準では1100キログラム(プラスマイナス20キログラム)の台車を衝突させて試験することになっている。豊田会長は、米国の基準である1800キログラムの台車を使っていたとし、より重量の重いものを衝突させて安全性能を確認しても制度上は不正になるとの不満を示していた。しかし、国交省の立ち入り検査の結果、衝突させていた台車の構造がつぶれやすい形状のものだったのに加え、米国の1814キログラムという基準は2006年に廃止されていたことも明らかになった。

 豊田会長は赤っ恥をかかされた格好だが、「モノ言う役員を切り捨ててきたことから周りにイエスマンしかいなくなり、不正が発覚しても都合の悪い内容は豊田会長の耳に入れないようにしてきた弊害だ」(トヨタ関係者)と指摘する声が社内にはある。

 5月に不正の報告のあった「シエンタ」の認証試験でも、後面衝突試験にダミーを搭載して試験しながら、試験車両重量のデータを改ざんするという悪質な行為も国交省の立ち入り検査で明らかになった。国交省の立ち入り検査で新たに不正が明らかになった7車種のうち、6車種は相互認証制度で海外当局から認可されたモデルだ。

「豊田会長が日本の型式認証制度を問題視したことに対する、国交省のあてつけだ。日本の認証試験で不正があれば相互認証している海外市場にも影響することをトヨタの首脳に認識してもらうためだろう」(トヨタ関係者)