また薬の成分によっては、期限切れによって分解し、私たちの体に害をもたらす場合もあります。

例えば、テトラサイクリン系の抗生物質では、期限切れによって変性する恐れがあり、そのまま服用すると、ファンコニ症候群(尿細管の機能が低下する病気)が発生する恐れが報告されています。

地球上であってもこうしたトラブルは避けたいものですが、多くの制限が付きまとう宇宙や火星であれば、なおさらでしょう。

しかし長期宇宙ミッションにおいて、十分な量の医薬品を期限切れにせず管理するのは簡単ではありません。

地球とは異なり、宇宙ミッションでは簡単には物資の補充ができないからです。

では現状、宇宙ではどれほどの医薬品が用いられているのでしょうか。

ISSでは少なくとも106種類以上の薬が常備されている
ISSでは少なくとも106種類以上の薬が常備されている / Credit:Canva

NASAは、国際宇宙ステーション(ISS)で使用されている医薬品を公表しておらず、通常は、この疑問に答えることができません。

しかし今回の研究チームは、ISSの薬剤リストに関する情報を入手することができ、2023年の時点で、ISSには少なくとも106種類の医薬品が備えられていたという。

そしてこのうち91種類の薬については、有効期限を知ることもできました。

これらの中には、宇宙飛行士たちが比較的高頻度で使用する薬や、緊急時に必要な薬などが含まれていることでしょう。

ちなみに、宇宙飛行士がISSに滞在する期間は数カ月~半年であり、地球からも物資が度々補給されます。

ISSで働く宇宙飛行士たちは、医薬品の有効期限にそこまで敏感になる必要はないのかもしれません。

しかし、これが火星ミッションになると、話が変わってきます。

有人火星探査中、60%以上の薬の有効期限が切れる

地球から火星への道のりはかなり長く、片道の移動だけで約8カ月以上必要だと想定されています。

今回の研究では、ISSに常備されている医薬品が火星ミッションでも必要になると想定し、それらの有効期限と火星ミッションを達成するのに必要な年月を比べました。