40年間にわたって鮭缶のアニサキスは増加していた!原因は海洋哺乳類の増加?

研究チームは、鮭缶に含まれるアニサキスの数を調べました。

その結果、1979年から2021年にかけて、シロザケとカラフトマスに寄生するアニサキスの数が増加しているのを発見しました。

一方で、ギンザケとベニザケでは、アニサキスの数に変化は見られませんでした。

鮭缶から回収されたアニサキス
鮭缶から回収されたアニサキス / Credit:Natalie Mastick(University of Washington)_What four decades of canned salmon reveal about marine food webs(2024)

研究チームによると、鮭に寄生するアニサキスの数の増加は、食物連鎖の変化を示すものだという。

どうしてそう言えるのでしょうか?

マスティック氏によると、「アニサキスは複雑な生活環を持ち、多くの種類の宿主を必要とする」からです。

まず、海中に放出されたアニサキスの卵は孵化したのち、オキアミなどの小さな甲殻類に食べられ、食物連鎖に入ります。

最初の宿主であるオキアミは小魚に食べられ、アニサキスも小魚に寄生することになります。

そして小魚は鮭などの大型の魚に食べられ、アニサキスはそれらの内蔵の中でさらに成長していきます。

アニサキスの生活環
アニサキスの生活環 / Credit:Wikipedia Commons_アニサキス

この連鎖は、最終宿主である海洋哺乳類(イルカ、クジラ、アザラシ)まで続き、成虫となったアニサキスは宿主の腸管に生息。アニサキスの卵は排泄物と共に海中に放出され、再び新しいサイクルが始まります。

アニサキスがこのような生活環を持つからこそ、研究チームは「海洋哺乳類などの宿主がいなければ、アニサキスは生活環を完了できず、その数が減少する」と指摘しています。

逆を考えると、食物連鎖内のアニサキスが増加しているということは、最終宿主である海洋哺乳類も増加していると推察できるわけです。

研究チームによると、1979年から2021年にかけて海洋哺乳類が増加した理由として考えられるのは、気温上昇、1972年に全面改正された「水質浄化法」、同じく1972年に制定された「海洋哺乳類保護法」などです。

鮭缶に含まれるアニサキスの増加から、海洋哺乳類の増加も推察できる
鮭缶に含まれるアニサキスの増加から、海洋哺乳類の増加も推察できる / Credit:Canva

ちなみに、鮭4種のうち、2種類だけでアニサキスが増え、残り2種では変化がなかった理由を推察するのは難しいようです。

なぜなら、アニサキスは数十種存在しており、種類によって寄生する宿主も異なるからです。

鮭缶から発見されたアニサキスは、製造工程で劣化しており、種を識別することが難しく、この点を詳しく調査するのは不可能です。

それでも、「古い鮭缶に含まれるアニサキスの数から、食物連鎖や海洋哺乳類の変化を知ることができる」というアイデアは、非常に興味深いものです。

研究チームは、同様のアプローチが、イワシなど缶詰にされる他の魚の寄生虫の数を調べるのにも役立つと考えています。

なお、再度述べますが缶詰の寄生虫は製造工程で死んでいるため、食べても安全です。安心して缶詰を楽しんでください。

もし、鯖缶や鮭缶の中にアニサキスを発見したなら、「気持ち悪い」かもしれませんが、同時に「食物連鎖が正しく働いているのだな」と海の生態系に思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

参考文献

What four decades of canned salmon reveal about marine food webs

Expired Cans of Salmon From Decades Ago Reveal a Big Surprise

元論文

Opening a can of worms: Archived canned fish fillets reveal 40 years of change in parasite burden for four Alaskan salmon species

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。