一般的な魚の缶詰の賞味期限は製造日から3年であり、「保存食」として世界中で重宝されています。
保存がきくとはいえ、40年前の缶詰を食べようとは誰も思わないでしょう。
しかし、そんな古い缶詰が、研究者にとっては貴重な資料になるようです。
なんと古い鮭缶は、「寄生虫アニサキスのアーカイブ」として活用できるというのです。
アメリカのワシントン大学(University of Washington)に所属するナタリー・マスティック氏ら研究チームは、1979年から2021年にかけて製造された鮭缶を分析し、鮭缶の「鮭の切り身」に含まれる寄生虫アニサキスの数が増加していることを発見しました。
このことは、過去40年で、アニサキスを含む食物連鎖が正しく機能し、海洋哺乳類の個体数が増加している事実を示唆するという。
研究の詳細は、2024年4月4日付の科学誌『Ecology and Evolution』に掲載されました。
※この記事には寄生虫の含まれた缶詰の画像があります。今後美味しく缶詰を食べたい方は閲覧に注意してください。
数十年前の鮭缶は、「アニサキスのアーカイブ」だった
アニサキス(学名:Anisakis)とは、アニサキス属に属する線虫の総称です。
このアニサキスは、鯖や鮭などの魚介類に寄生することでよく知られており、スーパーで売られている切り身だけでなく、魚介類の缶詰の中からも見つかることがあります。
私たち人間が生きたアニサキスを食べてしまうと、激しい腹痛や吐き気を伴う「アニサキス症」を発症してしまいます。
特に日本では、刺身など生食文化があることから、感染リスクは高いと言えます。
しかし缶詰の場合は安心できます。
製造過程で加熱殺菌が施されているため、缶詰の中のアニサキスは死んでおり、食べたところで無害なのです。
そして缶詰は「保存食」として扱われるため、他の食品と比べて、昔のものが捨てられずに残っていることが多いようです。
賞味期限を越えて、何年も、何十年も放置されるケースもあることでしょう。
今回、マスティック氏ら研究チームは、それら古い魚の缶詰に斬新な役割を見出しました。
彼女たちは、古い鮭缶をアニサキスのアーカイブとして活用したのです。
最初に研究チームは、シアトルを拠点とする「水産物協会(Seafood Products Association)」から、品質管理のために毎年保管していた鮭缶を大量に入手しました。
それら要らなくなった178個の鮭缶には、42年間(1979~2021年)に渡ってアラスカ湾とブリストル湾で獲られた4種類の鮭が入っていました。
鮭の種類は、サケ(通称「シロザケ」、学名:Oncorhynchus keta)、ギンザケ(学名:Oncorhynchus kisutch)、カラフトマス(学名:Oncorhynchus gorbuscha)、ベニザケ(学名:Oncorhynchus nerka)です。
そして、それらの鮭缶を開き、中の切り身を調べると寄生していたアニサキスも一緒に保存されて残っていたのです。
つまり、42年間分の鮭缶にはそれぞれの年のアニサキスが含まれており、缶詰がアニサキスのアーカイブとして機能しているのです。
では、それらアニサキスのアーカイブから、どんなことが分かるのでしょうか。