プーチン大統領は習近平主席のモスクワ訪問の機会を利用し、同主席に中国向けの2本の新しいパイプラインの建設を提案している。プーチン大統領は「ガスプロムは昨年、中国の希望を満たし、合意された以上の追加納入さえ行った。これは、ガスプロム社が責任があり信頼できるサプライヤーであることを物語っている。そこで『ファーイースト』(極東パイプライン)と『パワー・オブ・シベリア2』(PowerofSiberia2)のガスパイプラインの建設で更なる成長が可能となる」と強調したというのだ。

ガスプロムの未来は中国にある。「パワー・オブ・シベリア1」を通じて昨年、155億立方メートルの天然ガスが中国に送られたが、今年はその2倍の量になると予想されている。ただ、「ノルド・ストリーム1」と比較すると、半分に過ぎない。

ロシアの最東端の国境では、2番目の小規模なパイプライン「極東パイプライン」が建設中だ。2026年以降、同パイプライン経由でサハリン島の豊富な鉱床から約100億立方メートルのガスを日本海を通り、中国の最北東部に近いウラジオストク近辺に運ばれる予定という。プーチン大統領は、約550億ユーロの費用がかかったこのプロジェクトを「世紀のビジネス」と呼んできた。そして、「パワー・オブ・シベリア2」によって、さらに多くの天然ガスを中国に送れるというわけだ。

「パワー・オブ・シベリア2」のパイプラインは、現在、おそらく最も重要なロシアのインフラプロジェクトだ。2600キロメートルのパイプラインが完成すると、2030年から年間500億立方メートルのガスを西シベリアからモンゴル経由で中国に輸送できる。それは2つの「ノルド・ストリーム」パイプラインの配送量に達し、ロシアと中国の生産能力は一気に2倍以上になる。

興味深い点は、新たなパイプライン建設についてプーチン大統領が熱意を込めて説明し、ロシアのメディアはこのプロジェクトを既に合意されたものといった印象で報じている一方、中国の国営メディアは習近平主席のモスクワ訪問後もロシアとのパイプライン建設問題についてはほぼ何も言及していないことだ。パイプライン建設費でどちらがどれぐらい負担するかなど詳細な点は何も協議されていないこともあって、中国側はロシアから良きオファーが届くまで待ちの姿勢を見せている、という意見がある。

それだけではないだろう。ロシアのウクライナ侵攻以来、欧米の対ロシア制裁が施行されている。中国は親ロシア的になることで米国をあまり神経質にさせたくないため、ロシアとの天然ガスパイプライン建設問題を恣意的に抑制して対応しているのではないか。同時に、隣国の大国ロシアがウクライナ戦争の影響で政治的に、経済的に不安定となることは中国にとっては好ましくないため、ロシアに対しては経済的な支援など礼儀を尽くしたいという意向が北京側にあるのだろう。

中国は本来、ロシアとの間の新しいパイプラインは必要ないかもしれない。中国はカタール国営石油会社のカタール・エナジーから液化天然ガス(LNG)を購入することで合意する一方、昨年9月、トルクメニスタンとの間で300億立方メートルのパイプラインの建設で合意したばかりだ。ロシアとの間の「パワー・オブ・シベリア2」に関する協議は何年も続いてきたが、合意に至っていない。ロシアは長期的なプロジェクトに対してほとんど投資保証を提供していない。それゆえに、この制裁体制の下では、中国企業はロシアとのパイプライン建設に対してあまり乗り気がないのは当然かもしれない。エネルギー輸入先の多様化という観点からも、ロシア産エネルギーに依存しないほうが賢明、といった判断が北京指導部にはあるはずだ。

「ロシアは中国のディスカウント給油所」といわれているが、天然ガスのパイプライン建設問題でも中国側はその主導権を握っているわけだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年4月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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