「天下人だからすべての行いが正しかった。とにかく真似しよう」という考え方は誤りです。

偉人に関するエピソードを読む際には、前提となる環境が現代と異なる点が非常にたくさんあるということを頭に入れておきましょう。

あらゆる当たり前が違う可能性を考慮した上で、エピソードの内容を理解していく必要があります。

当時の平均寿命や気候、男性と女性の役割の認識、平均身長や体重、通信手段、その他諸々の前提の認識が誤っていると、当時と同じ効果は発揮できないことになります。

敵を見逃す秀吉

次は、豊臣秀吉のエピソードをご紹介します。

秀吉は、本能寺の変で信長を襲った明智光秀と、現在の大阪府と京都府の境付近を流れる円明寺川という川を挟んで対峙します。これが、いわゆる天王山の戦いです。

天王山の戦いの最中、秀吉は敵である明智軍が逃げられる道をつくりました。

もちろん、そこには狙いがあります。目の前の敵を倒すしかない状況であれば、明智軍は秀吉軍に向かっていくしかなく、全員の意識がそこに集中され、大きな力になっていたはずです。

しかし、苦しい戦いから逃げられるという選択肢が存在するとなると、人は迷います。戦いを続けるべきか、それとも逃げて体制を整えるか、両者を天秤にかけるわけです。

この戦術の効果は二つ考えられます。

一つ目は、単純に明智軍の一部の勢力が逃げることで敵が減ります。

二つ目は、仮に一人も逃げなかったとしても、相手の集中力を下げることができます。目の前の敵に向かう以外の選択肢を明智軍が認識したことによって判断のための時間が発生し、隙が生まれるわけです。

とはいっても、これも危険を伴う戦略です。敵が逃げたのであればその戦には勝てます。しかし、勝負はそれで完全に終わりなのでしょうか。もしかしたら、逃げた敵が後々はるかに強力な軍となって戦いを挑んでくるかもしれないのです。

これは、現代においても同じです。目の前の戦いで一度優位に立ったからと満足しているだけではいけません。1年後、3年後、5年後を考えたときに、逃がした敵は自社のビジネスの脅威になるかもしれないのです。そこまで考えた上で手を打つ必要があります。

過去の偉人のエピソードに触れる際の注意点