このシステムはジェセル王のピラミッド自体に備わっています(下図を参照)。
まず、ピラミッドの地下28メートル付近に通路が南北にまっすぐ通っており、ここに水が供給されたと見られます。
この通路は200メートルほどの長さがあり、北と南に一つずつあるシャフト(縦穴)を繋いでいました。
ジェセル王のピラミッドの中心部を通っているのは北側のシャフトです。
これらのシャフトには必要に応じて水を引き入れたり抜いたりするシステムが備わっており、それによって水圧を変えながら水の高さを自由にコントロールできたと考えられます。
そしてシャフト内に容器を浮かべておき、その上に石材を置くことでピラミッド内部をエレベーターのように昇降させられたというのです。
もしこの説が正しければ、当時の労働者にかかる負担を大幅に削減できたでしょう。
また研究主任のグザヴィエ・ランドロー(Xavier Landreau)氏は、この水圧エレベーターが本当に使われていたとしたら、古代エジプトの工学に関する従来の理解が劇的に変わるだろうと話しています。
反論の声が強い
しかしランドロー氏らの発表に対して、エジプト学(古代エジプトとその遺跡や遺物についての研究分野)の著名な学者たちの大方は強く反対しています。
エジプト学の大家であるザヒ・ハワス(Zahi Hawass)氏も「シャフトが水路として使われていたというなら、水が通った痕跡を見るべきですが、そんな証拠はまったくありません」と指摘。
加えて、「シャフトも水を通していた場所ではなく、ファラオを埋葬した玄室(石棺を収める場所)と考えるのが妥当です」と話します。
それから今日まで残っている史料を読んでも、ジェセル王のピラミッドの建設中にそのような水力を用いた施設が使われた記述はありません。