2008年、イギリスで結婚していたある一組のカップルが実は血のつながった双子であったことが判明し婚姻無効となるという、嘘のような実話が報道され大きな話題となった。恋愛の中でも近親婚はタブー中のタブーであり、しかも双子であったというなんともセンセーショナルな事例であったが、この話は単なるゴシップ的なネタではない。
■生い立ちを知らないまま別の養子となった双子が結婚
彼らの生い立ちや背景には複雑な事情があったこと、そして子どもが自身の身元を知る権利の是非について、現在そして将来的にも深く議論されるべき問題を多く含んでいる重要な点があったのである。
詳細からみていこう。報道によると、2人は出生後に別々の家族に養子に出された。成長して知り合い、恋愛感情が芽生えて結婚したが、その後に双子の兄妹であることを知ったという。
やがて裁判となり、最終的に高等法院は婚姻無効の判決を下し、2人の結婚は取り消しとなった。この双子カップルがどのくらいの期間結婚していたのか、子どもの有無、どのように事実が判明したのかについてはプライバシーの観点から一切公開されていない。
これがなぜ広く知られるようになったのか、それは当時英国議会で取り上げられていた、ヒトの胚や組織に関する法案審議の中で、同国のデヴィッド・アルトン上院議員がこのカップルの例を取り上げて、法案に対し情報開示に重大な不備があると主張したからである。
議会では同性愛者のカップルなどが、他人から提供された精子や卵子、胚などを用いた生殖補助医療によって子どもを持つことを認めることについて議論されていたが、一方で提供者情報の開示を求める措置は規定されておらず、誕生した子どもは自分がその事実を知ることができない可能性をはらんでいた。
先述の双子はお互いに、自分たちが双子であった事実を知らなかった。幼くして里親に引き取られたが、生みの親に対しての情報や兄弟等血縁者の情報が開示されることは一度もなく育ったという。
アルトン議員は裁判官から聞いた話と前置きしてこの2人の例を紹介し、「自分の生物学的な親を知る権利は、守られるべき人権のひとつ 」であると主張したのである。