【概要】
アポロ11号のクルーの1人だったマイケル・コリンズ氏は、月面には着陸せず、司令船に残り月の周回軌道を21時間も一人で過ごした人物。「史上最も孤独だった男」ともいわれることがあるコリンズ氏だが、月の地平線から眺める地球の儚さを目にし、人生観が変わったという。その後、彼は熱心な環境活動家になり、地球の環境保護を訴えた。
【詳細】
1969年7月、月面で人類の「偉大な一歩」を踏み出した2人の宇宙飛行士の輝かしい功績の一方で、月周回軌道上で司令船に留まり宇宙の静寂に包まれて孤独に過ごした宇宙飛行士がいる。「史上最も孤独だった男」こと、マイケル・コリンズ宇宙飛行士はこの時に何を悟ったのか――。
「オーバービュー効果」を最初に体験した宇宙飛行士
米ソ冷戦時代の最中の1969年7月21日、NASAの「アポロ計画」による人類初の有人月面着陸が成功した。
実際に月面に降り立ったニール・アームストロング氏とバズ・オルドリン氏の2人の宇宙飛行士は有名だが、この2人が月面ミッションを行う間、司令船「コロンビア」号に残って単独で月周回軌道を回り彼らの帰還を待ちつつ月面の写真を撮影していたのがマイケル・コリンズ氏(1930-2021)だ。
月周回軌道上で21時間を独りで過ごしたことで「史上最も孤独だった男」と呼ばれるようになったコリンズ氏だが、彼自身はこの時間を「穏やかな孤立(Serene Solitude)」と称し、世界観と人生観を変えるかけがえないの時間であったことを後に語っている。
コロンビア号によって月の裏側に連れて行かれたコリンズ氏は宇宙空間の中での完全な静寂を体験した。月の裏側では地球からの通信は途絶したため文字通り独りぼっちの環境に置かれたのである。
そして月の地平線から眺める地球は健気ではかないものであり、地球の危うさへの深い理解につながったのだった。この視点は後に「オーバービュー効果(overview effect)」と呼ばれ、「特に印象的な視覚刺激によって引き起こされる、自己超越的な性質を伴う畏敬の念の状態」と定義されている。
ある意味では人類で初めてオーバービュー効果による認知の変化を体験したコリンズ氏は地球と宇宙について認識を深く改めたのである。