「外交」とは自国の国益を重視し、中・長期の視点から慎重に準備して実行していくものと思っていたが、北朝鮮の外交は一時の激怒や無鉄砲な衝動から、準備なく唐突に行われることがある、といった印象を受けた。
韓国情報筋は「北朝鮮政権の外交惨事」と表現していた。何のことかと聞くと、朝鮮中央通信(KCNA)によると、北朝鮮の金正恩総書記の実妹、金与正労働党副部長が15日、「個人的見解」と断りながら、「岸田文雄首相と金正恩総書記との首脳会談を開催することも可能だ」といった趣旨の談話を発表した。その突然の岸田首相への訪朝への招きは、その前日(14日)、韓国がキューバとの国交樹立を発表した直後だったからだ。
もちろん、金与正氏の岸田首相の訪朝への招きにはそれなり根拠はある。岸田首相は9日、衆院予算委員会で停滞する対北朝鮮との外交を打破する意味もあってか金正恩総書記との首脳会談を開く意欲があることを示唆していたからだ。その発言への答礼として、金与正氏は「岸田首相の訪朝も」といった内容の談話を発表したと受け取ることもできるからだ。
それに対し、韓国情報筋は「2月14日、わが国とキューバとの国交樹立というニュースに大慌てした北朝鮮側は韓国側への対抗という意味合いから、岸田首相の訪朝というカードを急遽切った」と述べ、北側が周到な準備の末、日本との国交回復という大きな外交的な課題に取り組んでいくといった真剣なものではないというのだ。
北朝鮮にとってキューバは社会主義国の兄弟国だ。その国が北朝鮮の「最大の敵国」の韓国と外交関係を締結したのだ。金正恩氏は昨年末の党中央委員会総会で、韓国との関係をもはや同族関係ではなく「敵対的な国家関係」と断言している。その韓国が兄弟国のキューバと国交を締結したから、北側の怒りは爆発したわけだ。