ところで、ウィーンにはドナウ川沿いに近代的な国連都市があるが、そこにはIAEAの本部とCTBTO準備委員会事務局がある。IAEAは1957年7月29日に核エネルギーの平和的利用の促進を目的として創設された自治機関だ。CTBTOは核物質の爆発を監視し、核実験の疑いがある場合、現地査察を実行するなど、核実験の禁止を目的とする機関だ。

ただし、IAEAとCTBTOの現状を振り返ると、核の監視拠点としての実績は乏しい。もう少し厳密にいうと、IAEAは過去、北朝鮮の核開発を阻止できず、イランでもテヘランの核開発計画をストップできない状況だ。

IAEAは1992年1月末、北朝鮮との間で核保障措置協定を締結し、1994年、米朝核合意が実現したが、ウラン濃縮開発疑惑が浮上し、北は2002年12月、IAEA査察員を国外退去させ、翌年、核拡散防止条約(NPT)とIAEAから脱退。06年、6カ国協議の共同合意に基づいて、北の核施設への「初期段階の措置」が承認され、IAEAは再び北朝鮮の核施設の監視を再開したが、北は09年4月、IAEA査察官を国外追放。それ以降、IAEAは北の核関連施設へのアクセスを完全に失い、現在に至っている。

イランの場合、国連5か国の常任理事国にドイツを加え、イランの核問題で2015年、核合意が締結されたが、トランプ大統領(当時)が2018年5月、「イラン核合意」から米国の離脱を発表したことから、核合意の内容は実行が難しくなり、現状では核合意の再建の見通しはない。

一方、CTBTOの場合、1996年9月の国連総会で核物質の爆発を禁止する条約の署名、批准が始められたが、条約発効に必要な要件(条約第14条=核開発能力所有国の44カ国の署名・批准)を満たしていないため、条約は28年経っても依然発効していない。ただし、米英仏露中の5カ国は核実験のモラトリアム(一時停止)を遵守してきた。