図の左上と左下の2つの禁止領域
今回の研究によって作られた図では、主に左上と左下に「禁止領域」があることが示されています。
この禁止領域は物理学的な理解が不可能な領域であり、左上がブラックホール、左下が量子の不確実性の領域となっています。
たとえば太陽が、横軸のサイズはそのままに縦軸の質量だけが増えていった場合(赤い矢印)や質量はそのままにサイズだけが縮んでいった場合(青い矢印)、太陽の密度がやがて限界に達し、禁止領域の境界に接すると同時にブラックホールになってしまいます。
しかし重さやサイズの変化によってブラックホールになるのは、太陽だけではありません。
ウイルスや細菌の場合でも密度が限界に達すると同時に禁止領域に接触し、理論上、ブラックホールになってしまいます。
宇宙に存在する物質には、重力による押し潰しに耐えられる限界値(縮退圧)が存在しており、その限界値を突破すると「ある意味で」時空に穴が開き、永遠に落下する特異点を生成してしまうからです。
この図で示されている左上の禁止領域は、各サイズの物体がどれほどの重さ増加でブラックホールになるかを現わしているのです。
一方で左下の領域は、量子的不確実性によって禁止領域となっています。
この領域の境界はクォーク、ヒッグス粒子、電子、ニュートリノなどの小さな粒子が並んでいるのが見えるでしょう。
これより小さなスケールでは「単一の物体」という概念が崩れ、粒子の生成と消滅が発生するようになってしまい、物体としてのサイズや重さを考えることができなくなってしまいます。
また図をみると、より小さなサイズの物体ほど、より少ない質量増加(より短い矢印)でブラックホールになってしまうことがわかるでしょう。
サイズが小さい物質の場合、わずかな質量増加で密度の限界が突破されてしまうからです。
量子加速器を使った実験では、極めて小さなサイズでありながら極めて重い粒子が生成されることがありますが、そのような粒子はすぐにブラックホールになってしまうことが知られています。
幸いなことに、人工的に作られる極小のブラックホールはすぐに蒸発してしまうことが知られており、これまでの実験で生み出されたブラックホールによって、地球が飲み込まれることはありませんでした。
では、宇宙で考えられる中で最も小さな物体の場合、どれほどの質量増加でブラックホールになってしまうのでしょうか?
その答えは禁止領域の交差点にあります。
交差点にあるということは、最も小さな物体がすでにブラックホールであることを示しています。
研究者たちはこの点こそが、インスタントン(プランク質量ブラックホール)と名付けられた「宇宙の素」であると述べています。
プランク質量やプランク長、プランク時間は、現代物理における最小の単位であり、これより小さな質量やサイズ、時間は存在しません。
現在の宇宙論では、私たちの宇宙は「小さな点」が爆発的な膨張を起こしたことで誕生したと考えられています。
今回の研究では、この宇宙の素には2つの禁止領域が交わる、二重禁止点としての性質があり、最も小さなブラックホールでありながら、単一の物体としての概念がない存在である可能性が示されました。
物理学を拒む2つの領域の接点がなぜ宇宙の素となったのか?
この結果を物理学的にどう解釈するかは、現在のところ不明となっています。
では逆に、宇宙最大の物体の場合、どうなるのでしょうか?