ところがこの「本当の数字」は財務諸表には出てこない。株式や土地の売却損は一時的な特別損失として営業外利益に計上されるからだ。特別利益から特別損失を引いたネットの収益は、全産業で2020年までずっとマイナスだった。
つまり黒田日銀がばらまいた余剰資金は海外に投資されて円安が起こったが、その収益は半分しか国内に環流せず、特別損失と差し引きすると赤字になっているが、株式市場は連結経常利益をみるので、業績が「上げ底」になっていたのだ。
これは脇田氏の表現によると、1980年代のバブル期に過剰流動性が不動産や株式の「財テク」に使われたのとよく似た海外財テクの失敗である。海外投資の多くはキャピタルゲイン目的の運用だったので、円高(外貨安)でさらに大幅に減価する。これが今の株安の大きな原因だろう。
この観点からみると、今回の利上げは時期尚早どころか、遅すぎたというべきだ。遅くともコロナ騒動から回復し、コアCPIが2%に乗った2022年にはマイナス金利やYCCなどの異常な金融政策をやめるべきだったが、黒田総裁では望むべくもなかった。植田総裁が恐る恐るその「出口」を出たら、地獄が待っていた。
要するにアベノミクスによる異常な金融緩和で海外に投資された「財テク資金」が評価損を抱え、あわてて国内に回帰しているのだ。これも1990年代初頭とよく似ているが、あのときは銀行がつぶれて日本経済全体が大きなダメージを受けた。今回は単なる株式バブルなので、後遺症はそれほど深刻ではないだろう。