また女性の頭部には、中央で分けられた三つ編みのカツラが取り付けられていました。
ここにもネズや乳香、さまざまな希少鉱物の痕跡が見つかっており、カツラの繊維を若々しく保つための処理だと考えられています。
このような丁寧な処理を見ると、防腐処理者が適当にミイラ化を行ったとはとても考えられません。
となると、なおさら女性の口が悲鳴を上げるように開きっぱなしになっていることが謎めいてきます。
そこでチームは最も可能性の高い一つの説を唱えました。
それが「死後痙攣(cadaveric spasm)」です。
これは死後硬直の一種で、特定の筋肉が死後すぐに激しく収縮し、その状態が固定されてしまう現象を指します。
一般にもよく知られている死後硬直は通常、死後2〜6時間内と少し時間を空けて起こるものです。
しかし死後痙攣は亡くなった直後に発生するため、死の間際にほど近い状態を反映しています。
つまり、この女性は断末魔のような叫びを上げながら亡くなった可能性があるようなのです。
研究主任のサハル・サリーム(Sahar Saleem)氏も「本研究におけるミイラの悲鳴を上げている表情は、死後の痙攣と解釈することができ、女性が苦痛または痛みのために悲鳴を上げて死亡したことを示唆している」と述べています。
その一方で、死亡時の口の開きをそのまま正確に留めているとも限らないといいます。
というのも遺体の分解プロセスや乾燥の速度などで、口の開きが多少なりとも変わっている可能性があるからです。
ただ死後痙攣に伴う筋肉収縮はきわめて硬いため、防腐処理者も元の状態に戻せなかったのだろうと推測されています。
この女性がどんな病因で亡くなったかは定かでありませんが、死の直前まで苦痛に苛まれていたのかもしれません。