広島県は自民党王国と言われる。特に、宏池会の創立者である池田隼人元首相が広島に選挙区を持っていた経緯もあり、岸田首相がなお会長を務め続けている宏池会の牙城である。ただ広島市長だけは、その特別な性格から、革新系政党の支持を得て当選する「国際派」秋葉氏のような者も現れる。2012年に広島1区衆議院議員として宏池会の会長に就任した岸田氏にとっては、市長と県知事のポストを保守系にしたことは、少なからぬ重要性があったはずだ。

事実、「中央では先が見えた」などと地元・広島で酷評されていた岸田氏は、2007年に第一次安倍政権で内閣府特命大臣(沖縄担当)に、2012年に第二次安倍政権で外務大臣に就任し、長期政権の外交政策を支えたという評価を得て、自民党総裁候補となっていった。

岸田外務大臣の絶頂期は、2016年のオバマ米国大統領の広島訪問であったと言える。米国大統領の初の広島訪問は、米国側に「謝罪要求をされるのではないか」という懸念があった。それを、安倍政権側が「絶対に大丈夫だ」と説得をした。結果として訪問が大成功となったため、日米同盟の精神的紐帯が高い次元に到達した、と言われた。

その安倍首相の自信の背景には、岸田外相が広島1区を地元としている事実があったと言える。オバマ大統領の広島訪問は、安倍氏が岸田氏を外相に任命したときから始まっていた事業であった。その岸田氏にとっては、松井広島市長と湯崎広島県知事が、自らが野党時代に口説いて中央官庁からリクルートしてきた人物たちである、という事実が大きかった。

「(政令指定都市の)広島市と広島県がこんなに一致団結して協力して仕事をしたのは初めてではないか」と地元でささやかれるほど、岸田=松井=湯崎体制は盤石であった。

広島の普遍主義的な平和主義の精神の中で日米同盟強化を位置づけたことは、第二次安倍政権の大きな成果の一つとなった。現在の岸田政権も、やはり日米同盟=米国の同盟諸国との連携強化を外交成果としており、2016年のオバマ大統領広島訪問の重要性がうかがい知れる。