修学旅行で近畿日本ツーリストが、手配していたバス会社から旅行直前になってキャンセルの申し入れを受けるという事態が発生。「2024年問題」による運転手不足の影響が広い範囲におよぶなか、同様の事態は今後も増えるのか。また、旅行業界の慣習的にバス会社が大手旅行会社から受けていた運行案件を直前になってキャンセルするということがあり得るのか、という疑問の声もあがっているが、背景に何があるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

 近ツーは中学校の修学旅行でバス会社を手配していたが、そのバス会社から直前になってキャンセルの通達を受けた。近ツーは中学校側への文書で「昨今のドライバー不足の影響により、借切バスでの運行のお断りの連絡が先日ございました」「すべてのバス会社に急遽代替のバス会社を探しておりましたが直近という事と、どのバス会社もドライバー不足と国土交通省からの通達による長時間残業の見直しの影響によりお断りされ」と説明している。近ツーは列車やタクシーなど別の交通手段を確保し、一部行程を変更して修学旅行を実施する。

 以前からバス業界の運転手不足は進行していた。21年10月、公共社団法人「日本バス協会」が会員を対象に実施した調査によると、回答した885社のうち56%もの会社が「運転手が不足している」と回答。背景にはドライバーの長時間労働の常態化と低賃金があった。22年に厚生労働省が発表した「賃金構造基本統計調査」によれば、「バス運転者」の平均年収は約399万円と、日本人の平均年収より低い。21年に労働局、労働基準監督署が行った監督指導では、バス業界3770社の事業場の約8割で労働基準関係法令違反が認めらた。

「バス運転手は以前から長時間拘束を強いられてきました。運転手は早朝便から夜間便まで長時間運転し続けなければいけないので、生活サイクルが崩れてしまうのです。そのうえ休日出勤もあるため不規則な出勤スケジュールとなったり、休日がなかなか取れず、福利厚生も十分ではなかったりとネガティブな面が目立つので、多くの人が敬遠して人手不足になるのでしょう。

 また賃金構造が全産業のなかで低い傾向にあることも大きな原因。バス業界は、重労働であるにもかかわらず賃金が安いため、若者や子どもを育てる壮年世代は入りづらい構造となっています。しかもアイドルタイムを休憩時間に設定して、その間の賃金を支払わないケースも少なくありません。実質的な拘束時間が長いわりに賃金が見合っていない職業といえるのです」(桜美林大学航空・マネジメント学群教授の戸崎肇氏/23年5月2日付け当サイト記事より)

 そこに「2024年問題」が重なる。24年4月からトラックドライバーやバス運転手など自動車運転者に働き方改革関連法に基づき時間外労働の上限規制が適用され、時間外労働と休日労働の合計が年間960時間未満、月100時間未満に制限される。これにより広い領域でドライバー不足が発生しており、横浜市営バスは4月から367本の運行を削減し、小田急バスは3月に一部路線を廃止・減便。長野ではバス会社が一部路線の日曜運休に踏み切るといった事象が起きている。

「コロナ禍で乗車率と売上が大きく落ちたことを受けて人員を削減したところに、コロナ緩和による需要回復とインバウンド(外国人観光客)急増が重なり、一気にドライバー不足が表面化した。いったん他の業界・職種に移った人員は簡単には戻ってこない。また、儲かるインバウンド向け観光バスに車両とドライバーを回して一般利用者向けの運行バスを減らす動きもみられる。“市民の足”が失われることになるが、バス会社はどこも経営が苦しいため背に腹は代えられないという事情もある」(旅行業界関係者)

経営厳しいバス業界

 バス業界の将来は厳しい。バス会社の倒産・休廃業などが起きており、帝国データバンクの調査によると、20年度中に発生した観光バス運行事業者の倒産は14件、休廃業・解散は32件でともに過去最高。東京商工リサーチによると、22年上半期の「貸切バス業」倒産(負債1,000万円以上)は9件で、上半期としては1993年以降の30年間で最多件数を記録した。   「高齢者となると運転手の重労働に耐えられるかどうかが問題になってきます。無理な労働を重ねることによって生活習慣病になったり、慢性的に疲労に陥ったりすることで事故発生のリスクが高まるので、このままずっと高齢者頼みで業界を回すわけにはいきません。

 また以前でしたらトラックの運転手がバス業界に流入することも珍しくなかったのですが、現在は体力さえあればトラックのほうが稼げるケースが多いため、バス運転手のひとつの供給源が絶たれてしまっています。車の扱いに手慣れた運転手がバス業界に来なくなってしまっているのも、高齢者が支えている現状の一因になっていると考えられますね」

 都市部はバスの需要があるので業界は成り立っていますが、地方になるとバスよりもマイカー中心の社会となります。一部の高齢者などにバスの需要はあるため社会的に意義はあるものの、単純に一企業の経営として考えると利用者が少ない路線を運行するメリットは希薄です。結果、地方では運行数を減らしたり、路線を廃止したりしてバスの利便性がいっそう低くなり、余計にマイカーを持つ人が増え、バス利用者が減るという悪循環に陥ってしまっています。我々が思う以上に都市部と地方のバスに関する格差は大きいのです」(前出・戸崎氏/23年5月2日付け当サイト記事より)