米EV(電気自動車)メーカー、テスラの株価が昨年夏の直近ピークから約5割も下落するなどEV失速の懸念が広まっている。独フォルクスワーゲン(VW)が本社工場で量産型EVを生産する計画を中止する一方、年内にエンジン車の人気ブランドのモデルチェンジ車を複数発売する。同じくドイツのメルセデスベンツも2030年までに完全電動化をするとしていた計画を撤回し、新型エンジンの開発に着手。完全EV化・脱エンジン車の旗振り役だった欧州市場の変化を受け、世界的に脱EV一辺倒・エンジン車依存の動きが徐々に広まるのではないかという見方も出始めている。専門家の見解を交え今後の展開を追ってみたい。

 欧州は2035年までに全ての新車をEVなどのゼロエミッション車(ZEV)にするという方針を掲げており、米国政府はEVの購入者向けに最大7500ドルの税額控除を行い、一部州は将来的に全新車のZEV化を決めている。日本も35年までに全新車を電動車にする方針を掲げるなど、EVシフトは世界的潮流でもあった。

 この流れに自動車メーカー各社も対応。メルセデスベンツは30年までに全車種を完全電気自動車(BEV)にするとし、米ゼネラル・モーターズ(GM)は35年までに販売する全乗用車をEVにすると表明。VWは世界におけるEVの販売比率を30年までに50%にするとしていた。

 日本勢もこうした動きに同調。マツダは30年までに全販売に占めるEVの比率を25〜40%に、ホンダは40年までにEV・燃料電池自動車(FCV)販売比率をグローバルで100%に、日産自動車は欧州市場において26年度における電動車両の販売比率を98%にする方針を決定している。

世界ではEVが失速

 自動車メーカー各社の動きとは裏腹に、世界ではEV失速が顕著になっている。欧州では月単位でみるとEV販売が前年比マイナスとなる国も出始めている。背景にはEV購入への補助金の縮小がある。ドイツは昨年12月にEV購入への補助金を終了し、フランスはアジア生産のEVを補助金の対象外とした。イギリスはすでに22年に補助金を終了している。

 米国でもEV普及に暗雲が漂い始めている。バイデン政権は22年に「インフレ抑制法(IRA)」を成立させ、一定条件を満たすクリーン自動車の新車購入者に対し1台あたり最大7500ドルの税額控除を付与するなどしてEV普及を後押ししている。だが、22年10~12月期から3四半期連続でハイブリッド車(HV)の販売台数がEVを上回り、23年10~12月にはトヨタ自動車のHVの販売台数が四半期ベースで過去最高の約18万台となり、米テスラのEV(約17万台)を上回るという事態が起きた(4日付読売新聞記事より)。

 米国のEV動向を大きく左右すると予想されているのが、今年秋に行われる大統領選挙だ。二酸化炭素排出規制に否定的なトランプ氏が勝利すればEV優遇措置は廃止ないし縮小されるとの見方もあり、米国のみならず世界の自動車メーカーは戦略の見直しを迫られることになる。