時折、家を出たまま二度と戻らない人の話題がある。その理由に見当がつく場合もあれば、まったくわからないケースもある。また明らかに事件に巻き込まれたと思われるものもあれば、事件性が皆無のものもある。
行方不明の多くは単独の出来事として起こるが、中にはグループ全員がいなくなるケースもある。たとえば、アメリカではかつて一家5人がマイカーに乗ったまま忽然と消えてしまった「マーティン一家失踪事件」が起こっている。
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※ こちらの記事は2021年4月7日の記事を再掲しています。
家族で楽しみにしていたドライブ旅行に出かけた幸せな一家は、それ以来、二度と帰宅することはなかった――。今も未解決の「マーティン一家失踪事件」である。
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ドライブ旅行に出かけたまま戻らなかった一家
1958年12月7日、ケネス・マーティン(54歳)、妻のバーバラ・マーティン(48歳)、および3人の娘、バービー(14歳)、バージニア(13歳)とスーザン(11歳)は、オレゴン州ポートランドの自宅からそう遠くないコロンビア渓谷の田園地帯に日帰り旅行するために、マイカーであるクリームと赤のカラーリングの1954年製フォードステーションワゴンに乗り込んだ。
彼らの計画では午後1時に家を出て渓谷の自然を満喫し、クリスマスツリーになるような木と装飾用の草葉を集め、その日の夕方には家に帰ると近所の友人にも伝えていた。計画した日からマーティン一家はこの日が来るのを楽しみにしていたという。しかし一家はドライブ旅行に出たきり、家に戻ってくることはなかったのだ。
マーティン一家が翌日になってもまだ帰宅しないことを知った近所の人々は、地元警察へ通報した。警察は一家の姿が国道沿いのガソリンスタンドと、オレゴン州フッドリバーのレストランで目撃されたという証言を得たが、一家の足取りを追うそれ以上の情報をつかむことはできなかった。
マーティン家が家宅捜査されたが、家の中におかしな点は何もなかった。洗濯機には洗濯物があり、キッチンのシンクには食事を終えた後の皿が浸かっており、かなりの金額の現金も手つかずに残されていた。一家が何らかの理由で突然逃げ出したのだとする仮説はまったく成り立たない。
警察が最初に考えた仮説は、家族の車が何らかの理由でコロンビア川に転落して流されたという説であった。コロンビア川沿いの道路には不審なタイヤ痕や、マーティン一家の車と同じメーカー、モデル、配色の車からのものと思われる塗料の欠片(paint chips)が見つかったのだが、念入りな捜索にもかかわらずそれ以上の具体的な物証は何も得られなかった。
そこで米陸軍の工兵隊がボンネビルダムによって付近の川の水位を5フィート下げてからソナー技術を駆使して川底を探査したのだが、残念ながら何も見つからなかった。
マーティン一家が行方不明になったのと同じ日に、一家の車が通ったと考えられている場所からそう遠くないカスケードロックスで、盗難車である白いシボレーが放置されているのが見つかっていた。車は約700マイル離れたカリフォルニアで盗まれたことが判明している。
その翌日、この車を盗んだ2人組の男たちが特定された。さらに彼らは同じ日にマーティン一家が最後に目撃されたレストランにいたことがウェイトレスの証言から明らかになったのだ。
そしてこのウェイトレスは、2人の男がマーティン一家と同時刻に店を去ったことを証言した。一家とこの男たちに何らかの接点があったのだろうか。
しかし、信じられないことに警察はこの件を重要とは考えず、これ以上追求しないことを決定し、2人の男がマーティン一家失踪事件に関連した取り調べを受けることはなかったのだ。
放置されたシボレーの近くには女性物の手袋があったのだが、これも追求されなかった。さらに疑わしいのは、放棄された車の近くの茂みに隠されていた拳銃(コルトコマンダー38口径)で、その銃身にはまるで誰かを殴るために使ったかのように、乾いた血が付いていた。そして奇妙なことに、この拳銃もまた警察は証拠として処理せずそれ以上捜査しなかったのである。