総務省の方針と狭山市の方針の矛盾

次にわかったのは、「3年雇止めの必要性」である。

2020年に会計年度任用制度が導入された際、狭山市は国のマニュアルにしたがって「任用から3年経過すれば公募を実施する」方針を示しており、今回の公募は、それに則って行ったとされている。

しかし、この点についても、市教委サイドの主張はおかしいと埼玉県本部書記長は指摘する。

「マニュアルで『再度の任用は2回まで』と総務省は明記していたため、狭山市もそれにならったわけですが、実はこれ、法的根拠が何もないんです。国の非常勤は、繰り返しの任用は2回までとしていますと言っているにすぎないんですね。なので、自治体ごとに解釈をして、選考なしの任用は、3年ではなく5年にしているところも多いです。そもそも職ごとに公募しなくても、今いる職員の『選考』でいいとされています。つまり、一人ひとり面接をして、その人の勤務評価が高ければ『では、あなたを任用します』でいいんです。それをわざわざ、全員公募にした市教委(中央図書館)の異様さが、余計に浮き彫りになりました」

中央図書館の場合、会計年度任用の3年めのスタッフのみを雇止めにしたわけではなかった。まだ勤務して1年めのスタッフも雇止めになっていたことが、のちに判明した。

その一方で、図書館を除いた他の部門では、すべての会計年度任用を対象にした再度の公募など行われていなかったことも明らかになった。

つまり、狭山市では市庁舎全体で、3年ごとに会計年度職員の再公募をしたわけではなかった。図書館という特定の部署の特定の人だけをターゲットにした不合理な雇止めが行われていたのである。

前出の埼玉県本部書記長は、団体交渉でのやりとりを、こう振り返る。

「あなたたち(市教委)は市の要綱どおりにやっていると言うけれど、実際にはやってないじゃあないか。そういう間違った運用のおかげで、不利益を被った人たちがいることをどう考えるんだと。会計年度任用の職員だって生活する権利があるし、働いて成長する権利もあるんだから、そこはちゃんと受け止めるべきと詰め寄りました。そうすると、この制度を作成した市長部局は、ある程度理解を示しましたが、市教委のほうは、自分たちは要綱にしたがって進めただけと、あくまでも責任を認めようとはしませんでした」

雇用保険がもらえなくなる理由

狭山市、図書館職員を大量解雇…22年勤務のベテラン司書を雇止め、雇用保険も不支給の恐れ
(画像=狭山市での「司書の復職で図書館のさらなる充実を求める要望」より、『Business Journal』より引用)

今回の雇止めによって、会計年度任用制度には、もうひとつ、とんでもないデメリットが潜んでいることも判明した。

それが会計年度任用職員を退職した後、雇用保険が1円ももらえなくなるリスクである。

2020年4月からフルタイム勤務となった会計年度任用職員は、一般の公務員と同じ「退職手当」の支給対象となった(適用は半年後の10月1日から)。公務員は、雇用保険に加入しない代わりに、退職した際の退職手当が支給されるようになっている。

よって、フルタイム勤務者は、会計年度任用された時点で雇用保険を脱退することになるのだが、そのことに関する理解が決定的に不足していた。その結果、雇用保険がもらえると思って退職したら、もらえないことに気づくことになりかねない。

今回のケースでは、雇止め時点では、雇用保険を脱退してすでに3年経過しているため、退職後に失業手当の受給資格はない。失業手当が支給されるのは離職後1年間のみだからだ。

Yさんのように22年間も勤務してきた人なら、会社都合退職として240日分失業手当が支給されるはずだが、その権利がいつのまにか消えてなくなっていたのだ。

一方、公務員の退職手当については、一定の身分保障のもとで理論的には、雇用保険に加入していたらもらえる失業手当以上の条件が適用されるはずであるが、Yさんが加入している埼玉県の共済の場合、会計年度任用として採用されて以降の3年間のみを対象に算定されるため、雇用保険よりも極端に手取り額が少なくなってしまうのだ。

Yさんがもらえる退職手当は、雇用保険にそのまま加入していれば受給できる総額としてハローワークが試算してくれた金額の半額以下になるという。

そのような不都合が生じることは誰も想定しておらず、Yさんがハローワークに相談して初めてわかった。筆者も東京労働局に問い合わせてみたところ、「これまでにそのような事例は、一件も把握していない」とのことだった。

ちなみに、パートタイトムの会計年度任用ならば、雇用保険にそのまま加入し続けることになるため、このような不都合が生じることはないとされている。

狭山市、図書館職員を大量解雇…22年勤務のベテラン司書を雇止め、雇用保険も不支給の恐れ
(画像=自治労連・埼玉本部作成、『Business Journal』より引用)