北朝鮮の金与正朝鮮労働党副部長が岸田文雄首相から首脳会談の意向を伝えられたと明かした背景について、欧州の韓国情報筋は、「北朝鮮が日本との関係正常化を真剣に考え出しているとは思えない。日韓関係に楔を打ち込むためだ。金正恩総書記は韓国がキューバと国交を締結したことに激怒している。韓国は北の第一敵対国だからだ」と説明した。すなわち、金与正党副部長は岸田文雄首相の訪朝カードをチラつかし、韓国を困窮させようとしているわけだ。

韓国平昌冬季五輪大会開会式(2018年2月9日)に参加した金与正党副部長(オーストリア国営放送中継からスクリーン・ショット)

金与正氏は26日、日本が拉致問題で譲歩しない姿勢を見て、「日本との接触や交渉を無視し、拒否するつもりだ」との談話を出した。朝鮮中央通信が伝えた。北側が拉致問題での日本政府の立場を知らないはずがない。だから北側がわざわざ拉致問題で日本側の立場を批判するのは交渉戦略に過ぎないことは見え見えだ。

興味深い点は、金与正氏が「史上最低水準の支持率を意識している日本の首相の打算に朝日関係が利用されてはならない」、「先に門をたたいたのは日本側であり、われわれは日本が過去に縛られず新たに出発する姿勢ができていたら歓迎する立場を明らかにしただけだ」(ソウル時事)と言及していることだ。特に、前者の金与正氏の発言は北側の本来の意図を相手側のそれと重ね合わせて憶測しているからだ。

金与正氏の発言は、韓国が今年2月14日、キューバと国交樹立を実現したことへの報復という意味合いがある。韓国とキューバは米ニューヨークで両国の国連代表部が国交樹立の文章に署名した。韓国側は「ソウルの外交の勝利」と表明してきた。

北朝鮮にとってキューバは社会主義国の兄弟国だ。その国が北朝鮮の「最大の敵国」の韓国と外交関係を締結したのだ。金正恩氏は昨年末の党中央委員会総会で、韓国との関係をもはや同族関係ではなく「敵対的な国家関係」と断言している。北側の激怒が如何に強烈かを理解しなければならないだろう(「韓国の『外交勝利』と『北の外交惨事』」2024年2月21日参考)。