生物が最も多く暮らしているのは海でも森でもなく、土だったようです。
これまでの研究で、熱帯雨林やサンゴ礁、深海が生物多様性のホットスポットとなっていることに疑いの余地はありません。
しかしスイス連邦森林・雪氷・景観研究所(WSL)は新たに、地球上の全生物の3分の2(59%)は「土壌」に住んでいるという推定を報告しました。
これは今までの推定値(25%)の2倍以上に当たるとのことです。
研究の詳細は、2023年8月7日付で科学雑誌『PNAS』に掲載されています。
地球の生物の3分の2は「土壌暮らし」と推定
研究主任のマーク・アンソニー(Mark Anthony)氏によると、この研究以前、世の科学者たちは最も生物が豊富にいる場所がどこかを知らなかったという。
「私の周りでは多くの研究者が土ではないかと疑っていましたが、その確たる証拠はありませんでした」と話します。
実は2006年に一度、土壌における生物多様性を推定する調査がなされましたが、その際は特定の生物(特に動物)のみを考慮したり、生息地を明瞭に区分していなかったりとかなり曖昧なものでした。
(この調査で全生物の約25%が土壌に存在すると推定されています)
そこで研究チームは今回、既存の科学文献を検索したり、土壌で確認されている種に関するデータセットを再評価して、新たに土壌の生物多様性を推定することにしました。
ここでは、ある生物種が土壌の中および表面に生息する場合を「土壌暮らし」と定義し、その他の生息地として、海洋、淡水、海底、空中、建築物、人間などの宿主生物が含まれています。
アンソニー氏いわく、ここまで厳密に生物多様性と生息地の関係を調べたのは初めてとのことです。
そして文献とデータ分析の結果、地球上の全生物の3分の2に当たる約59%が土壌暮らしであると推定されました。
土壌暮らしの割合が高かった生物種は、高い順にヒメミミズ科が98.6%、菌類が90%、植物が85.5%となっています。
低い方のグループでは、カタツムリやナメクジを代表とする軟体動物で20%、モグラを代表とする哺乳類で3%でした。
こちらのグラフは各グループごとの土壌暮らしをしている種の割合(オレンジ)を示したものです。
その一方で、世界各地の土壌の研究がかなり不十分であるため、実際の数値はこれより低い可能性も高い可能性もあるといいます。
(科学者たちは地球上のすべての土壌を実地で調べ尽くしているわけではありません)
アンソニー氏は、推定値には最大で15%の誤差があると考えられ、それに従うと土壌生物の割合は低くて44%、高くて74%になると説明しました。
当然ながら、見つかっていない種はデータに含まれないので、その調査次第で生息地ごとの割合も変わってくるでしょう。
特に深海の世界は大部分が謎に満ちており、いまだ人類の知らない生物が山ほど潜んでいると言われています。
しかしそれでも本研究の成果は、土壌の生物多様性が予想以上に高く、土壌環境を保護する重要性をあらためて浮き彫りにするものです。
次項では土中生物の具体例として今回の論文に掲載されている写真を紹介しています。虫なども含まれるので苦手な方は注意してください。