サラリーマンが税金の穴を埋める「支援金」

その典型が、今回の番組で話題になった後期高齢者支援金である。図のように後期高齢者への給付費15.3兆円の赤字の半分を公費(税と国債)で埋め、残りの大部分をサラリーマン(健保組合と協会けんぽ)で埋めている。

厚労省の資料

特に組合健保では、保険料の半分が高齢者(前期・後期)への拠出金になっているが、これは保険料ではないので、健保組合が使い道をチェックできない。税金でもないので、財務省の歯止めもきかない無責任体制である。

実はこの構造は年金でも同じで、基礎年金という年金は存在しない。これは図のように国民年金の赤字を埋めるための仮想的な年金勘定で、その赤字をサラリーマンの厚生年金から18.7兆円拠出して埋めている。

厚労省の資料

これが日本の社会保障の特徴で、財政的に破綻している国民皆保険の矛盾を取りつくろうため、源泉徴収で逃げられないサラリーマンから取り、国民年金や後期高齢者の赤字を埋める構造になっているのだ。

後期高齢者医療の国営化か民営化か

この矛盾をなくす方法は、原理的には二つある。一つは維新の足立康史さんが提案しているように、後期高齢者医療の赤字をすべて税金で埋めることだ。

これでは今の後期支援金6.2兆円が増税になり、14兆円(消費税7%分)が75歳以上の高齢者だけに使われることになる。このような医療の国営化は、とても納税者の理解をえられないだろう。

もう一つはこの番組でも議論したように、医療保険を年金のように2階建てにし、1階は保険診療、2階は民営化することだ。1階は税方式にし、2階は自由診療として混合診療を認める。後期高齢者医療制度は廃止し、国保に統合する。

1階部分の対象になる治療は標準化し、標準医療費として支給する。その財源はすべて国民健康税として徴収し、国民健康保険料は廃止する。その負担率は現在の保険料より増やさないと法律で決める。

2階には医師免許は必要なく、薬剤師や看護師が参入してもいい。たとえば癌治療でいえば、放射線治療は1階、抗癌剤は2階とし、オプジーボのような高価な薬は10割負担とし、高額療養費の対象からもはずす。

レカネマブのような認知症の治療薬や、胃瘻や人工呼吸などの延命治療も2階とし、必要な人は民間保険に加入する。眼科、耳鼻科、皮膚科、歯科など命にかかわらない治療はすべて2階でいい。

こういう提案は今までも出ているが、「命を金で買うのか」とか「金持ちだけ長生きする」と攻撃されることが多い。玉木さんも音喜多さんも慎重な言い回しだったが、このままではサラリーマンに集中する負担が限界に達し、1999年に健保連のやったような拠出金の不払い運動が起こってもおかしくない。

医療・福祉は現在でもGDPの1割を占め、2030年には労働人口で製造業を抜いて最大の産業になる。豊かな高齢者が自己責任で新薬を使えば、イノベーションも促進できる。これから日本が成長するには、医療のような内需型産業の生産性を上げるしかない。それには国民皆保険という高度成長期のレガシーを見直す必要がある。

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