この欄の著者は、私の若い時の留学時代を過ごした、ユタ大学のHuntsmanがん研究所の人たちだ。2023年にLancet誌に発表された論文を根拠に米国FDAがNALIRIFOXと呼ばれる多剤抗がん剤併用の治療法をすい臓がんに対して承認したが、それに真っ向から疑義を唱えたような内容だ。日本では権威と呼ばれる人が、権威ある雑誌に発表した内容にこのような形で疑義を唱えることは(でき)ない。

NALIRIFOXはFOLFIRINOXと呼ばれる現在利用されている治療法よりも、腫瘍縮小率が41.8%対31.6%と高いこと、好中球減少症や神経毒性が低いことで承認された。しかし、無増悪生存期間や生存率にはほぼ差がなかった。また、下痢の発症率は、前者の方が後者に対して20%対13%と高い。臨床試験に際して、誰かに、どこかに忖度したのかどうかまでは触れられていないが、かなり批判的だった。

著者たちは、NALIRIFOXの試験では、腫瘍縮小率を判定した際に、独立した画像評価委員会がなかったことに疑義を唱えた。また、神経障害についても疑問を呈していた(細かいことは省略する)。さらに課題として指摘したのが、治療費だ。2週間ごとの治療費が、NALIRIFOXが7800米ドル、FOLFIRINOXが500米ドルと約15-16倍高い。

そして、最後に、「期待か誇大か」、疑問が残ると締めくくっている。15-16倍も治療費を費やすほど医学的価値があるのか?かなり挑戦的なコメントだ。

編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。